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「靭……って、お前!?」
 父と移動中の車の中、言い争いになった。
 理由は学校。
 用意されるがまま、私立の小学校に入学。友達にも囲まれて、楽しい学校生活を送っていた。が、ある日、友人達がこっそり話しているのを聞いてしまう。
 ――― 『あいつんトコ、俺んちの親会社なんだよな』『社長が親で、会長がお祖父さんなんだろ』『ウチなんて、直属の部下だもん』『ワガママ言われたってさぁ』『逆らったら、クビだよな』 ―――
 ワガママなんて言った覚えはない。けれど、他人から見て、自分の言動がワガママに映るのかもしれない。そう思っているうちに、交わす言葉が減った。そしたら、今度は相手から話し掛けてくる。さも、心配そうに……。それすら、自分達の家庭の保身の為にしか見えなくなった。
 本当に本当の“友達”は、ここにはいない。
 だから、父に切り出した。
「中学校は規定の公立校に行きたい」
 と。
 素性を隠せば“友達”が出来るかもしれない。ふざけ合って笑い合う……そんな“友達”が。
 理由を聞かれたが、言えなかった。それが言い争いへと発展し、振り上げた学生カバンが運転手の視界を遮り、ハンドルを動かした。
 センターラインを越えた車は、丁度走ってきた対向車に衝突。互いにハンドルを切り合ったものの、サトルは右腕を骨折。相手車両は、側壁に突っ込み、黒い煙が上がっていた。
 病院へ搬送されて、そこで、相手車両の状態を知る。運転していたその家庭の世帯主は重傷。助手席にいた長男は左足の骨折と膝の靭帯の損傷。長男は小学六年生。来年は、有名私立校へサッカーの特待生として入学予定だった。
「……予定、だった?」
 看護士達の話に聞き耳を立てる。
 “黄金の左”と噂されていた左足の骨折・靭帯断裂。骨折が治ったところで、二度とサッカーは出来ないだろう。勿論、入学の件も白紙に戻る。
 小さな身体が、ベッドの上で嗚咽に震えていた。と。
「僕のせいで、入学、白紙に……」
 ユウタの呪文で体力を取り戻したサトルがリョウスケの腕を掴む。
「いらねーよ。そんなもん」
 リョウスケがサトルに微笑む。そして、その顔をソウイチロウに向けた。
「損傷した靭帯は、自身の大腿の靭帯を移植することが可能だ」
「でも、僕……」
「天狗になってたから、バチが当たったんだ」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒