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 ボクは篭手を装備した手を強く組んだ。さっき、矢に込めた想いくらいじゃどうしようもない事は明らかだ。もっと強い風が必要なんだ。突風でいいから、強い風をあいつの炎にぶつけないと逃げられない。
「……鳥さん……」
 羽をくれた緑の鳥に祈る。ボクらを助けて欲しい、と……。
『……ミドリノ……』
 指を組んだ手に集中するボクの頭の中に言葉が響く。
「翠の……」
 無意識に復唱しているボク。
「翠の風、蒼の風……」
 ボクはボクのしている事に驚いていた。
『……ハルカナル……』
「遥かなる空をゆく風よ……」
 ボクの意識とは無関係に、言葉が口をついて出る。
『……ワレニ……』
「我に集いてその力……」
 ボクの周りに風が集まり、篭手を通して身体の中が風で満ちていく。
「来るぞ! タカヒサ!」
 ドラゴンの口が開き、ソウイチロウが叫んだ。
 唐突に迫り来る熱風に前髪が浮く。
「……その力、解き放て!」
 広げた両腕のクリスタルを中心に風が吹く。目の前まで迫っていた炎が、最初は徐々に、次に一気にドラゴンへと逆流した。
 自分の炎をかぶって、ドラゴンの動きが止まる。その隙をついて、
「行くぞ!」
 ソウイチロウがサトルを抱いて走り出し、ボクらもその後を追った。
 夜目の利くソウイチロウが木々の間をぬって走る。その後ろをユウタが手にペンダントを握り締めながら走り、一番後ろにリョウスケの右をフォローしながらボクが続いた。後ろから咆哮が聞こえる。
「急げ! 追って来るぞ!」
 ソウイチロウの声が響く。確かに、後ろから吹く風が温かい。振り返ると、木々の隙間から顔を上げたドラゴンの姿が見えた。
「炎を返されたのが頭にきたんだろうな」
 ボクの横でリョウスケが笑う。
「笑い事じゃないよ!」
 大体、そうしろって言ったの、ソウイチロウだし。
「橋だ!」
 そして、再びソウイチロウの声。
 見ると、大木の橋が光に包まれていた。
「何?」
「ここに来る時に、洞穴の中に置いてあったキノコをばら撒いておいたんだ」
 振り返ったユウタが、
「サトルと一緒に……」
 ソウイチロウに抱かれたサトルを心配そうに見る。
 キノコの光で暗闇に浮かび上がった橋をボクらは一気に渡った。
「さて、と……」
 サトルを下ろしてソウイチロウが対岸の森を見つめる。
「さっきは、森からは出て来なかった」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒