CLOSE GAME
小声でソウイチロウに訊いてみる。
「いや、落ちてはいないな」
もしかしたら、ドラゴンの下なのかもしれない。
「……祖母ちゃん……」
リョウスケがその手を胸で組んだ。無くしたくはない、大切な御守り。
「あった!」
ソウイチロウがボクとリョウスケの背中を叩く。
「どこ?」
「あそこ!」
「どこだよ?」
「あそこ! ドラゴンの角の先!」
確かに、何かが引っかかっている。“御守り”って言ってたから、てっきり、神社の四角い布の袋に入っているものだとばかり思っていたけど、微かに赤く光るそれは、小さな石のようだった。
「勾玉だよ」
魔よけとして存在する日本古来の装飾品だ。試合中でも付けていられるように、と首飾りになっているのだとリョウスケが教えてくれた。
「あれを取るの?」
素手じゃ届かない。てか、届くはずがない。となると……。
「もう一度、落っこちるか?」
成す術なし、といった感じでソウイチロウが言う。
「ちくしょう!」
吐き捨てるような言葉の後、リョウスケが大剣を杖代わりにして歩き出した。
「リョウスケ?」
「取ってくる!」
「どうやって?」
「あいつの頭によじ登ってやる!」
慌てて止めるボクとソウイチロウ。
「危ないよ、リョウスケ」
「止めるな!」
「その足で、登れる筈ないだろ!」
ソウイチロウを睨みつけるリョウスケの目から、涙がこぼれた。ソウイチロウの言葉はキツイ。でも、決して間違ってはいない。ユウタのそっと包み込むような優しさとは逆の、厳しい優しさだ。リョウスケが無茶をしないよう、ソウイチロウなりに考えての言葉なんだ。
「タカヒサ!」
不意にソウイチロウがボクを呼んだ。
「お前、風を使って、あれを落とせないか?」
風を使って?
「でも、ボク……」
“風使い”っていっても、何をどうしたら使えるのか、よく分からない。
「例えば、放った矢に風をまとわせる。とか?」
矢に風。できるかもしれない!
「うん。やってみる」
ここから狙って、ここに矢を戻す。なんてブーメラン的なことはできないから、後ろに回ってそこからふたりのところに届くように矢を打つことにした。
ドラゴンを起さないように、そーっと歩く。足元は燃えてしまった葉っぱや枝。歩くたびに灰が舞い上がるけど、風の篭手がボクを守ってくれている。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒