CLOSE GAME
そう言って、言葉を詰まらせる。ボクは隣に腰掛けて星空を見上げた。
元の世界では決して見ることは出来ないだろう、満天の星空。星座なんて関係ないくらい、沢山の星たちが競うように瞬いていた。澄んだ夜の風がボクの身体を駆け抜け、流れ星がひとつ、空をよぎった。
「サッカー、やってたんだ、オレ」
やがて、静かに語りだすリョウスケ。ボクは黙って頷いた。
「こう見えて、そこそこ有名なんだぜ。都内の有名私立中学からもスカウトが来て、来年からはそこのチームに入るはずだったんだ」
中流家庭へ舞い込んだ、一流中学からのスカウト。授業料免除の特待生として、中学・高校・大学と道が用意されていた。勉強のことを気にせず、大好きなサッカーに打ち込める。胸を躍らせていた矢先の交通事故だった。施設に入院している祖母の面会に行った帰り道、対向車が突然センターラインを越えて来たのだ。運転していた父は、半年の重傷。助手席にいたリョウスケは、大切な左足を骨折、靭帯を断裂してしまった。
「リハビリで動くようにはなるけど、もう、サッカーは……出来ない」
祖母から施設近くの神社で貰ってきてくれた御守りを手渡された直後の出来事だったらしい。
相手の過失のため、治療費やら父の仕事の関係やらは相手側が全面保証してくれるから、生活には支障はない。だけど、リョウスケは“夢”を失った。
「全国大会で優勝して、祖母ちゃんに、トロフィーを見せてやるって約束したのに」
手の届くところまで来ていた“約束”。立てた右ひざの上の拳が震えている。もう、先が長くないのだと、お祖母さんに想いを寄せる。いたずらした時も、両親に怒られた時も、いつも笑って見守ってくれていたお祖母さんが大好きなのだと教えてくれた。だからこそ、御守りだけは取り戻したいのだ、と。
「分かった」
ボクは立ち上がって、右手を差し出した。
「ボクも付き合う」
「お前……」
「何も出来ないけど、リョウスケの身体を支える事くらいなら出来ると思うんだ」
リョウスケがボクの手を握り返した。
「バカだな、お前」
そう言って笑うリョウスケ。その後ろから、
「全くだ」
呆れたような声がして、ボクらは驚いて振り返る。
「武器も持たないで、何をどうするつもりだ?」
ソウイチロウが笑っていた。
「夜中にゴソゴソうるさいと思ったら……」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒