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「分からないってなんだよ!!」
 まるで脅しだ。
「やめろよっ!!」
 ボクは精一杯の力でリョウスケからユウタを引き離した。ボクの腕の中で、ユウタが震えている。モンスター相手に立ち向かっていたユウタが、震えて泣いていた。
 ソウイチロウが、リョウスケの肩をポンと叩いた。
「万一、治ったところで、俺達はどうするんだ? どうなるんだ?」
 そう言って、泣いているユウタを見る。
「ここにいれば、望みが叶う。だけど、俺達は戻る為に冒険を選択している。ここで治ったところで、戻ってしまえば……」
 ユウタを見ていた視線をボクらに移して、
「戻ってしまえば、また、ベッドの上だ」
 ソウイチロウがメガネを上げた。サトルが動かない右腕を庇うように左手で掴んで唇を噛み、リョウスケがその左足に向かって舌打ちをする。
「とりあえず、寝ようぜ。寝て、頭を冷やして、朝になったらゆっくり相談しよう」
 今日は色々ありすぎた。疲れた身体とこんがらがっている頭で話し合っても、きっとまとまらない。ボクらは頷き合って、その場に横になった。

  
 どのくらい経った頃だろう。不自然な物音で目が覚めた。
 暗い穴の奥から外へと何かが引きずられるように移動している。壁伝いに動いていた影が、入口まで来てドサリと倒れた。
「……ちっく……しょ……」
 呟いた声はリョウスケ。そのまま、這いずるように洞穴を離れていく。ボクは、ふたりに会った時のことを思い出していた。
 ――― 『戻れよ!』 ―――
 担がれたリョウスケは、向こう岸へ戻りたがっていたっけ。
 ボクはユウタとサトルを起こさないよう、そっと立ち上がり、リョウスケのところへ走った。
「リョウスケ」
 ボクに声を掛けられ、驚いたように顔を上げる。
「なんだよ!」
 必死の形相を悟られまいと、リョウスケの顔が拗ねたようにそっぽを向いた。
「戻るの?」
「お前、なんで……」
 起き上がろうとするリョウスケに手を貸す。
「向こうに何があるの?」
 ――― 『死ぬぞ!』 ―――
 ソウイチロウはそう言った。そんな場所に戻らなければならないなんて、一体何があるんだろう?
「御守りを落とした」
 リョウスケが川の音のする方を見て言った。
「“御守り”?」
 復唱するボクにリョウスケが頷く。
「祖母ちゃんから貰った御守り。次の試合も勝てるようにって」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒