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 ユウタは空を仰いで、クンクンと鼻を動かす。
「何かって?」
 首を傾げながら、ボクとサトルも辺りをクンクンと嗅いでみた。と、ふわりと浮く前髪。風向きが変わった。……違う、風上に立っていたボクらに向かって、一筋の風がほんの一瞬吹き抜けたんだ。
「向こう岸の森の中?」
 こっちの岸は山の斜面、向かい側は広がる森になっている。直接、火や煙が見えるわけじゃないけれど、何かが燃えた臭いがするのは間違いない。
「行ってみる?」
 サトルがボクとユウタを振り返った。
「火事、かも、しれないんだよね?」
 恐る恐る言ったボクの言葉に、ふたりが頷く。
「でも……」
 ユウタのクリスタルが、鎖をピンと張って向こう岸を指している。
「“かもしれない”所に、仲間がいる。かもしれない」
 サトルがキッと向こう岸を見つめた。
「うん」
 もしそうなら、助けなくちゃいけない。もし違ったら、それはそれで逃げればいい。ボクらは“橋”へと一歩踏み出した。サトルが先頭。次がボク。ボクの服の裾を握ってユウタが続く。万が一落っこちたりしたら、泳げないボクは大変なわけで……。結果、それなりに緊張しながら、小さな歩幅で歩く。
「サトル、待って」
 サッサと歩くサトルを呼び止めてしまう、ヘボいふたり。
「大丈夫だよ」
 サトルが笑いながら戻ってきて、ボクに手を差し出した。その手を迷うことなく握るボク。我ながら、マジでヘタレ。でもね、背に腹は変えられないと思うんだ!
 サトルの手にしがみつくように歩くボクに、更にしがみつくユウタ。ヨタヨタとようやく橋の真ん中まで来たその時、
『引っ張んじゃねーよっ!』
『グダグダ言ってないで、サッサと歩け!!』
『歩けねーよ!』
『はぁ!?』
 猛スピードの言い争いが聞こえ、唖然とするボクら。
「森の中から?」
「うん」
「だよね」
 更に声が近くなる。
『戻れよ!』
『俺は、お前に付き合って死ぬ気はない!』
『戻れ!』
『やだね!』
 そして、生い茂る木々の中から、黒に淡い金の衣装とそれに担がれた黒に深紅の衣装がダッシュで現れた。
「邪魔っ!!」
 黒×金の服を着た背の高い眼鏡をかけた奴が、ボクらに向かって手を払う。退けという事らしい。でも、ここは一本橋だから……。
「退け!! 死ぬぞ!!」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒