CLOSE GAME
不安になって訊いてみる。だって、ボク、泳げない。
「川に直接入って渡るしかないだろうね……」
答えながらサトルがボクの不安に気が付いた。
「タカヒサ。ひょっとして、泳いだことも、ない?」
正解! 病院には、院内学級はあっても、プールはない。
「大丈夫! きっと、あるよ」
励ましてくれるユウタ。
「……うん……」
「でもさ……」
サトルがボクの手をとって言う。
「水泳って喘息の治療にいいんだよ」
「そうなの?」
ボクじゃなく、ユウタが首を傾げた。
「うん。肺を鍛えるのにいいんだって聞いた事がある。だからさ」
サトルがボクの手をキュッと握る。
「戻ったら、スイミング、始めなよ」
「……でも、ボク……」
六年生にもなって泳げないなんて、恥ずかしい。そんなボクの気持ちを読み取ったサトルが、
「僕と同じところに通えば、僕が教えてあげられるから」
“それなら恥ずかしくないだろ?”と笑う。なんだか嬉しくて、ボクは笑顔で頷いていた。
「あ!」
ユウタがボクらを振り返って指さす。
「“橋”じゃない?」
川を横切る木が見える。あれは、“橋”っていうより“大木”。何かの拍子で倒れた大きな樹が、そのまま、こっちと向こう岸を繋いでいる。
「ある意味“橋”だね」
「だね」
頷き合うボクらに、
「もう!」
ユウタの頬が膨らんだ。そして、ドスドスと歩き出す。
「ユウタ!」
「ごめんって!」
追いかけて、ユウタを挟むようにして並ぶと、
「クスクス」
ユウタが笑い出した。
「なんだよ、ユウタ」
「怒ったフリ?」
「ごめ〜ん」
こんな嘘もなんだか楽しくて、三人で笑いながら歩く。笑いながら互いを小突いて、笑いながら謝って……。同年代の友達がいないボクにとって、初めての友達。なんて事ない会話が、胸の中で踊りだす。現実の世界では味わった事のない感覚に、この世界も悪くはないな、なんて思ってしまう。
そうして辿り着いた“橋”。
「結構、太い樹だね」
近くまで来て、その倒木の大きさに驚くボクら。
「……焦げてる?」
サトルが、こちら側の岸に広がる枝を指して言った。言われてみれば、折れてる根っこの方も何だか黒くなってる気がする。
「焦げ臭くない?」
ユウタの問いに、
「“これ”じゃなくて?」
目の前の大木を指すけど、
「んーん。なんか、現在進行形で何かが焦げてない?」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒