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炎の竜


  
 大きな樹が一本そびえ立つ崖を後にして、ゆるい坂になっている道を歩いていくと、岩肌が目立っていた景色は徐々に緑に変わり、気が付けば、ボクらは再び森の中だった。ユウタの胸のクリスタルだけを頼りに、あまり?道?とは言えない?道?を歩く。
「けもの道だね」
 サトルが足元の注意を促しながら呟いた。
 “けもの道”という事は、人は通らない、という事……だよね。
「山の中だから、当たり前か」
 言い出したサトルが、ひとりで納得している。
 モンスターに出会うこともなく、平和な道行きだ。
 そう! もう、随分歩いているのに、ボクは元気なんだ!
「タカヒサ、大丈夫?」
 ユウタが心配そうに聞いてくるけど、本当に大丈夫だから、ボク自身が驚いてる。歩いている間も、身体の中を風が吹き抜けているのが分かる。森の中のキレイな空気が、ボクの身体を洗ってくれているようだ。
「こんなにずっと歩いたのって、初めて!」
 振り返るボクに、
「タカヒサってば、はしゃぎ過ぎだよ」
「ちっちゃい子みたい」
 ふたりは笑うけど、歩こうが走ろうが息が詰まることがないなんて、そんな当たり前のことがこんなにも楽しいなんて思いもしなかった。
「タカヒサ、そこ、下りるみたい」
 道がなくなり、それでも先を指すユウタのクリスタル。輝く先は細い木々が茂る斜面だ。
「日陰だから、ちょっとぬかるんでるね」
 サトルが足元を確かめる。落ちた葉っぱが土の上に敷き詰められていて、滑りやすくなっている。進もうとするサトルを引き止め、ボクが先頭に立った。片手しか使えないサトルが万が一滑っても、ボクが受け止められるように。
 見た目よりも急な斜面を空に向かってまっすぐに立っている木に掴まりながら少しずつ下りていく。時々、湿った落ち葉に足元をすくわれそうになるけれど、なんとか踏ん張りながら、あと少しで斜面下に到着というところで、
「ぅきゃん!」
 ユウタの悲鳴と、
「わわっ!」
 サトルの声が続けざまに聞こえ、
“ドンッ!”
 ふたり分の体重がボクにのしかかった。心構えとしては、“サトルが滑り落ちたとしても”な訳で、まさかふたりが同時に落っこちてくるなんて……。
「痛たたたた……」
 転げ落ちて、ぶつけた所をさすりながら顔を上げると、
「大丈夫?」
 サトルが斜面を器用に滑べり下りてきた。
「ユ〜ウ〜タ〜」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒