CLOSE GAME
「キレイ……」
鳥を見上げていたユウタが思わず呟いた言葉。
大きく広げた翼が太陽の光に銀色に輝くその姿は、眼下に広がる森の王のようだ。
『……アリガトウ……』
「え?」
頭に響く声に、思わず鳥を見上げる。
『タスケテクレテ、アリガトウ』
“助けた”だなんて……。
「キミが“風切羽”を教えてくれたお陰だよ」
手を伸ばして、緑の羽毛に覆われた肢体をそっとなでた。
「タカヒサ?」
「誰と話してるの?」
鳥の声は、やっぱりボクにしか聞こえないみたいだ。
「うん。それがね……」
ふたりに説明しようとした時、ボクの身体が浮いた。後ろの襟元をつままれて、そのまま引き上げられていく。
「「タカヒサ!」」
驚くふたりが、ボクに手を伸ばす。が、緑の鳥はボクを銜えたまま、首をクルリと半回転させた。そして、嘴を離す。ボクの身体は緑の羽毛に覆われた鳥の背中に乗っていた。
『ガケノ、ウエ?』
「う、うん」
ユウタとサトルが続けざまに背中に運ばれ、鳥が大きくはばたいた。
ふわふわの淡緑の肢体がボクら三人を乗せて宙に浮く。眼下には今までいた巣と広い森。一体、どこまで運ばれて来たんだろう。どこまで行けば“果て”になるんだろう。遠くかすむ地平線に溜息が出た。
「タカヒサ」
後ろからユウタがボクの肩を突付く。
「サトルからの伝言」
ユウタが、半分振り返ったボクの耳元で囁いた。
「…………って。ダメかな?」
いい案だとは思うけど、どうだろう?
ユウタを見て、サトルを見て、鳥に視線を移す。
「あの……鳥さ……」
『ツイタヨ』
着地の衝撃が軽くボクらの身体を浮かせた。屈みこんでくれた鳥の背中からサトル・ユウタ・ボクの順で降りる。
「タカヒサ」
「お願い」
降りて早々、ふたりに鳥の前に押し出されてしまう。
「あの……。鳥さん……。その……。ボクらね……」
流石に図々し過ぎて、軽く言えない。だって、無理な願いだって分かってるから。
『ゴメンネ、タカヒサ』
頭に響く声と共に、鳥の想いが伝わってくる。
この広大な森の守護者だった親鳥の意思を継ぎ、この森をあの怪鳥から守らなければならないのだ。あいつの風切羽が新しく生えてくるのに、時間はかからない。だから、この森を離れる事などできはしないのだと……。
「ううん。“旅について来て欲しい”なんて、ボクらの方こそ、図々しくて……」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒