CLOSE GAME
“心配性だな”とサトルが笑って、やっぱり、卵を指さす。
今まで響いていた音が止み、グラグラと揺れだす大きな卵。
「何?」
「頭いいね、この子」
サトルの言葉にボクは頷いた。突付いて割れないのなら、揺らして卵ごと倒れこんでしまうつもりなんだ。倒れた拍子に、堅い殻が割れると考えて。
卵の揺れが最大限になったとき、卵の周りを囲んでいた小さな石の上にフワリと浮いた。その直後、大きな地響きと共に卵が転がり、その衝撃で小さかった穴から一気にひび割れが広がっていく。
“ピキャー”
卵が割れたと同時に響く、甲高い鳴き声。雛鳥の第一声だ。
「出たっ!」
飛び跳ねたユウタが真っ先に雛鳥に抱きついた。
「ふわっふわ!」
淡緑色の羽に覆われた雛鳥を抱きしめて、ユウタがはしゃぐ。
「雛鳥も生まれたことだし、僕らもそろそろ行こうか」
サトルが岩壁を指差した。
ここでジッとしているわけにはいかない。ボクらは元の世界に帰らなきゃならないんだ。
「じゃ、ボク、ツルを……」
再びツルを用意しようと岩壁に向かうボク。その後ろで、
「ダメだよ! こら、ダメだったら!」
ユウタが雛鳥の頭を抑えていた。
「タカヒサ、サトル。なんとかして!」
雛鳥がユウタに襲いかかって……。違うな。ユウタの腰の皮袋を狙ってる。
「水が飲みたいんじゃないの?」
「一口くらい、あげれば?」
「だって!」
ユウタがボクをじっと見た。ボクのために水を守ってくれたんだ。
「ボクなら大丈夫だよ。その子にあげて」
小さな発作なら、少し休めば治まる。だから、大丈夫。
「ちょっとだけだよ」
ユウタが腰から皮袋を外すと、待ちきれないとばかりに雛鳥が嘴を突っ込んだ。
「あ! こら!」
声を荒げてみるけれど、
「あ〜ぁ」
大半を飲まれたみたいだ。
「もう……!」
半べそで怒るユウタの目の前で、雛鳥の身体が目映い光を放つ。
「な、何?」
ユウタが驚きながら、ボクとサトルのところに駆け寄ってくる。何かケガでもしていたんだろうか? 甲高い幼い声が震える肢体に同調しながら巣に響く。
「え?」
最初に気付いたのはサトル。
「嘘!?」
続けて、ボク。
「大きくなって、る?」
最後にユウタ。
やがて静かに光が消え、?回復の水?を飲んだ雛鳥はというと、まだ幼いながらも飛べる程度の大きさまで成長していた。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒