CLOSE GAME
振り返ると、卵が大きく揺れている。てっぺんからは、淡黄色の嘴がはっきりと見える。生まれるんだ。揺れながらコツコツと割れ目の大きくなっていく卵をボクらは並んで見つめた。岩石のような外観。その隙間から時々見える、キレイな淡緑色の羽。
「オスだね」
呟いたボクに、
「そうなの?」
ユウタが首を傾げる。
「白い大きな鳥が卵を温めてた。それを緑色の大きな鳥が守ってた」
「そうなんだ……」
今はいない親鳥に、ユウタの顔が曇る。
「その記憶は、卵から?」
「うん。多分」
頷くボク。サトルがユウタの頭をポンポンと叩いた。
「僕たちに望みを託してくれたんだよ。親鳥も雛も」
“ね?”と泣きそうなユウタに微笑む。
現実の世界ではどうあれ、今、このゲームの中じゃ、ボクらは“勇者”なんだとふと思った。
ただし、
「コンコン!」
喘息持ち。
「大丈夫、タカヒサ?」
水を差し出すユウタに首を振る。
「流石に“鳥の巣”はキツイよね」
今度はサトルが水を勧めてきた。だけど、この程度のことで飲むわけにはいかない。
「平気、だよ」
両手で鼻と口を軽く塞いで息をすれば、幾分かマシになる。
顔を見合わせたユウタとサトルが、肩をすくめて笑いながら皮袋を戻した。
ひび割れた卵の隙間からか細い鳴き声が聞こえる。コツコツと内側から殻を突付く音も休むことなく響いてくる。
「堅くて割れないのかな?」
ユウタが手伝おうと卵に向かって手を伸ばした。
「ユウタ!」
その手を掴んで、サトルが首を振る。
「ひとりで生きていくための最初の試練なんだから、手伝っちゃダメだよ」
両親をあの怪鳥に殺されてしまったこの雛鳥にとって、卵の外の世界はきっと楽ではないだろう。ひとつひとつ、自分の力だけで乗り越えなくてはならない。卵から出るのもそのひとつ。ボクらはジッと見守った。
コツコツ、カツカツ……。
静かな巣の中に、雛鳥の格闘する音が響く。時々聞こえてくるか細い鳴き声が、まるでボクらに助けを求めているように聞こえる。
「頑張れ!」
手を出せない分、ボクらは声援を送った。
小さなひびが少しずつ広がり、その中心部から穴になるけど、雛鳥の出てこれる大きさではないから、結局、鳴き声だけが聞こえてくる。
「ねぇ。手伝っちゃダメ?」
ユウタがサトルのマントを引っ張って卵を指さした。
「大丈夫だよ」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒