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 焦る気持ちと裏腹に、どれが風切羽なのかさっぱり分からない。
 こうなったら、端っこの羽めがけて適当に射ってみるか。そう考えて数本の矢を構えた。
『カザ……キリ……バネ……』
 今にも矢を放とうとしたボクの頭の中に、雛鳥の声が響く。そして、怪鳥の翼の先端が微かに光を帯びた。
「分かった!」
 飛行に必要と思われる羽は左右三本ずつ。ボクは弓を力いっぱい引いた。
「お願い! 当たって!」
 飛んでゆく矢を見ながら、ユウタがクリスタルを握り締めて手を組み合わせた。例え命中したところで風切羽が落とせるとは思えないけれど、祈りたい気持ちはボクも同じだった。
 大きく反っていた翼が、その先端からうねるようにはばたきを開始する。このままだと、その風圧で矢が失速しそうだ。
「お願いっ!!」
 放った矢の行く末を見つめるボクの後ろで、サトルがクリスタルを握るユウタの手に自分の手を重ねた。
「「「当たって!!」」」
 ボクらの思いが重なった。それにリンクするかのように、ユウタとサトルの指の間からクリスタルが目映い光を放つ。一直線に光が矢を追いかけ、瞬く間に追いつかれた矢がクリスタルの光をまといながら、うねり始めた漆黒の先端に刺っていく。
 怪鳥が咆哮をあげた。今までのとは違う、悲鳴に似た高い雄叫びが岩壁にこだまする。見る間に力の抜けていく両翼。中心にある黒い肢体が一足先に沈み、それを追うように翼がボクらの視界から消えていった。
「……墜ち、た?」
 太陽の光が燦々と降り注ぐ巣の中で、呆然と呟いたボクに、
「……みたい……」
 サトルが安堵の溜息を漏らす。
「死んじゃったのかな?」
 クリスタルを握り締めたまま、ユウタがボクを見た。
「死んだりしないと思うよ」
 あの体格だ。ここから墜落したくらいでは死んだりはしないと思う。飛べなくはなってるだろうけど。
「何ヶ月かすれば、また生えてくるから心配ないよ」
 え?
「“風切羽”って、また生えるの?」
 ユウタの肩を叩いて微笑むサトルの言葉に、驚くボク。
「僕らの髪の毛と同じだよ。抜けても、また生えてくる」
「良かった……」
 それを聞いたユウタが、ホッとしたようにクリスタルを握る手を解いた。自分を襲った相手を心配するなんて、なんだかユウタらしくて、ボクとサトルは視線を交わしながらクスリと笑った。
「タカヒサ! サトル! 見て!」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒