CLOSE GAME
この小児病院は、本館・西病棟・南病棟の三棟あって、本館は主に外来患者の診察や検査をする。南病棟は比較的軽度の患者がいてボクみたいに一人で自分の事ができる子はここになる。西病棟は一階にERが入っているからちょっと大変な患者が多い。ケガで動けなかったり、手術が必要だったりする子が殆どだ。ボクとしては、ERのあの忙しそうな雰囲気だけでも呼吸が苦しくなるほど苦手なところだったりする。
「戻らなきゃ……」
病室を抜け出した事がばれたりしたら怖〜い婦長さんに怒られちゃうし、お母さんだって心配してるかもしれない。
とりあえず、回れ右して今来た廊下を戻ろうとしたその時だった。
「ゆうちゃん! ……ゆうちゃん!」
ひとつ向こうの廊下を行くベッドとそれにピッタリと付いている女の人と男の人が見えた。きっと、救急患者だ。傍にいたのは多分その子の両親。
(ICU……)
ベッドが運ばれていった先にあるのは、集中治療室だ。
(良くなるといいな……)
そう思いつつ、静かな個室の前を通る。首を傾げながら。
だって、こんな所、通った覚えがないんだもの。だけど、ここを通らないと渡り廊下には出られない。なんだかワケが分からず、それでも急ぎ足で渡り廊下へと歩く。
と、
「うるさい! うるさい、うるさい、うるさいっ!!」
一番端の部屋から怒鳴り声が聞こえて、一瞬立ち止まった。
「出てけよ! とっとと出ていけ!」
その声に追い立てられるかのように出て来たのはスーツ姿の男の人が二人と、女の人が一人。
必死に謝る女の人の口から「息子が……」と聞こえた。病室にいる子のお母さんだ。なんだか気になって部屋の角を曲がったところで聞いてみる。
「……会議でこんな時間になってしまいまして、申し訳ありませんでした」
男の人達が頭を下げるけど、
「あのケガでは、誠に申し訳ありませんが、入学の件は白紙に……」
言葉は冷たい。
「承知しました」
女の人が泣きながら頷いている。
よく分からないけど、きっとその子にとってもお母さんにとってもツライ事なんだと感じて、見えてきた渡り廊下へと向かった。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒