CLOSE GAME
ケガや病気がきっかけで諦めなきゃいけない事って結構あったりする。ボクの場合は学校。年に三十日くらいしか登校できない。幼稚園からずっと知ってる奴もいたりするけど、たまに登校したからといって喋るわけでも遊ぶわけでもない。義務教育だから行くには行くけど、勉強だってついていけない。
勉強をしてないわけじゃないんだよ!
この病院には、ボクみたいにしょっちゅう入院する子や長期入院のケガの子が大勢いるから、病院の中に学校があるんだ。院内学級っていうんだけど、いろんな学年の子がいるから少人数の学校みたいに混合学級。楽しくて、あんまり勉強にならない。この間、同じ学年の子がひとり来たけど、一日でやめちゃった。ちゃんと勉強しないボクらに呆れたみたいだ。
やっと渡り廊下だ。なんだか安心して、南病棟へと歩き始める。
「あれ?」
渡り廊下の南病棟側に人影。ボクと同い年くらいだ。右腕を三角巾で吊っているから、骨折かな。あのケガだとボクと同じ南病棟の筈なのに、なんで西病棟に向かってるんだろう? ……人の事は言えないけど……。
「坊ちゃま! お部屋へお戻り下さい!」
走り寄るスーツの大人が、その子の身体を抱きかかえた。
「謝罪なら、夕方、社長が伺われましたから、坊ちゃまはご自分の事だけをお考えください」
男の子の身体を抱きかかえて大人が南病棟内へと戻り始める。
「……でも、僕……」
「坊ちゃまがお気に病むことはございません」
「……でも……」
いいなぁ。ボクも“坊ちゃま”って呼ばれつつ抱っこで部屋に戻りたいな。一度は憧れるよね。“セレブ”ってさ。
あ。見えてきた。ボクの病室。
今は少し季節外れのせいもあって、喘息患者が少ない。だから、いつもなら大部屋に満室なのに、今回は四人部屋にボク一人の貸切状態だ。
「あれ?」
ベッドの上で何か光ってる。
左奥窓側のボクのベッドはボクが抜け出した時のまま、ブランケットがクシャと捲られている。ちょうどその空いた場所から光はさしていた。ボクは恐る恐るベッドに近付くと、その小さな光を覗き込んだ。
「……ゲーム?」
見たことも無いポータブルゲーム機。色はボクの好きなライムグリーンだ。
「こんなのあったっけ?」
ボクのゲーム機じゃない。新機種? でも、これのCMなんて見たことない。だけど、ボクのベッドに置いてあるし……。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒