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ペタペタペタ……。
深夜の廊下にスリッパの音が響く。
ここは病院。
国内有数の“小児病院”だ。その名の通り、患者は子供だけ。内科から外科・メンタル科まで、なんでもござれの大規模さと整った設備でその名を知らない者はいない。
ボク?
ボクはこの病院の常連。自慢出来た事じゃないが、一年の大半はここで過ごしている。物心が付いた頃には重度の喘息で幼稚園に通った記憶はない。そして、六年生になった今もそれは変わらない。家にいるのは一年の内二ヶ月くらいだし、学校へ行くのはそれ以下だ。学校の友達よりも病院常連の顔見知りの方が、圧倒的に多い。
え? トイレにでも行くのかって?
違うんだな。
今日はお母さんが面会に来てた。
ケンカしちゃったんだ。それも、つまんない事で……。
いつもの如く、喘息の発作を起こして病院に運び込まれたのは三日前。昨日からは動けるようになったから、ちょっと言ってみた。
「新しく出るゲーム機、欲しいな」
ホントに精一杯欲しいわけじゃない。ただ、大きな発作の後はいつも“何か欲しい物、ある?”って訊いてくるから、その手間を省いただけなんだ。
なのにお母さんときたら、
「いっぱい持ってるでしょう?」
だって。語尾にキツいものを感じて言い返したら、それが雪だるま形式にドンドン大きくなって……。
「いい加減にしなさい!」
最後に見たのは、涙を溜めて出て行くお母さんの背中。
おかげで消灯時間を過ぎても、ちっとも眠くならなくて……。
で、看護師さんの目を盗んで病室を抜け出した。
深夜の病院が怖くないのかって?
当たり前じゃん。常連なんだよ、ボク。幽霊なんて出るわけないし、怪奇現象なんて起こるわけもない。唯一怖いのは、婦長さんかな。
な〜んて。深夜っていっても、まだ夜の十時だもん。でも、小児病院の就寝時間は早いんだ。夜八時には部屋の電気が強制的に消されちゃうんだから。
ペタペタペタ……。
エレベーターを使うと見つかっちゃうから、こっそりと階段を上がる。
何階かな、ここ?
階数を確かめようと階段脇を見上げると【西病棟・3F】の文字。
「え?」
ボクが入院しているのは、南病棟。いつもそこ。いつの間に渡り廊下を通り過ぎちゃったんだろう?
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒