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 ユウタがボクにしがみついたまま、血のにじむサトルの右腕にそっと手を伸ばした。
 ボクとユウタはしっかりと足に掴まれていたから大したケガはしていない。でも、サトルは、その右腕をガッチリと嘴で銜えられていたのだ。この巣に落とされた時、サトルの右腕は血だらけだった。
「痛み……感じないんだ」
 “だから、大丈夫”と笑うサトル。
「なんで?」「どうして?」
 同時に声を出したボクらに、サトルが左手で右手をかばうように掴んだ。
「交通事故で、右腕をケガして」
「ケガ?」
「うん。右腕骨折」
 現実の世界で動かせないから、この世界でも動かない。という事らしい。
「そういえば、タカヒサの喘息も元の世界からだよね?」
「うん」
 頷いたボクを見て、
「病気とかケガとか、そのまま持ってきちゃうのかな……」
 ユウタが考え込む。
「“入院中”って、どこの病院?」
 怪鳥の巣の中。散らばる羽毛に少し咳き込みながらサトルに訊いてみる。
「“常葉(とこは)小児病院”」
「ボクと一緒!」
 自分と同じ病院の名前が出て、思わずサトルの手を握り締めるボク。
「ユウタ、クリスタルは?」
 ボクに対して笑顔で頷いたサトルが、真剣な顔でユウタの胸元を見た。さっきまでの輝きは何処へやら。今はただのペンダントだ。
「やっぱり、ここを脱出しなきゃダメみたいだね」
 フゥと溜息をつくサトル。その横で、
「ぼく達、“エサ”?」
 ユウタが嫌な事に気付いた。
「だろうね」
 その為の捕獲だと思う。
「ここに連れて来られたって事は、後で食べるって事?」
「多分、ね」
 認めたくはないけど、そうなんだろうな。
 大きな巣の中には、ボクらと丸っこい岩がひとつあるだけ。この様子じゃ、今晩の“メインディッシュ”ってとこかな。
「この巣を作ってる枝をどうこうして降りられる高さじゃないし……」
 下を見なくても、巣から見える景色でここの高さがわかる。数字的にはたいした標高じゃないかも知れないけれど、なんの道具も持たないボクらにとってはとてつもなく高い場所だ。
「逆に、上に行った方が早いかも」
 サトルが崖の上を指さす。
「上?」
 高所恐怖症のユウタが声をひっくり返らせた。
「ロッククライミングの要領で崖を登る、って考えてるんだけど?」
 しれっと言うサトルの言葉に、驚き過ぎて声の出ないボクとユウタ。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒