CLOSE GAME
腰に下げた皮袋をボクに差し出して、ユウタが心配そうに背中をさすってくれる。
「カゼ?」
走ってきた方を背伸びしながら確認していた茶髪が、ボクらの前に屈みこんでボクとユウタを交互に見た。
「喘息なんだ」
相変わらずボクの背をさすりながら、“ね?”とユウタがボクに微笑む。
ボクはというと、皮袋から水を飲み、そのまま、固まってしまっていた。
「タカヒサ?」
皮袋を持ったままビックリ眼のボクを見て、ユウタがボクの身体を揺さぶる。
「タカヒサ! どうしたの!?」
水を飲んだ途端に動けなくなったわけじゃない。ビックリしたんだ。飲んだのはたったひと口。苦しい息の中では、それが精一杯だった。
たったのひと口。ただそれだけなのに……。
「……発作……。治った……」
息を阻んでいた痰がなくなり、狭く縮んでいた気管支に吸い込んだ空気が通り抜ける。
「治っ……。ホントに?」
ユウタがボクの頬を両手で包み込む。
「ホントだ。顔色が良くなってる」
「ひょっとして……」
茶髪が皮袋を指差した。
「ひょっとして、それ、“回復の水”なんじゃない?」
“回復の水”。こういったゲームにありがちな、便利アイテム。飲めば体力とケガが回復する。
「ユウタもちょっと飲んでみてよ」
持っていた皮袋をユウタに差し出した。
もし、これがそうなら、ユウタの魔法力も戻る筈だ。
オズオズと受け取ったユウタが、皮袋に口をつける。喉がゴクリと動いてユウタが顔を上げた。
「……どう?……」
覗きこむボクの顔を見て、
「……なんとも……」
ユウタが眉をひそめて笑った。
「あ〜ぁ……」
ガックリと肩を落とすボク。すると、
「見て!」
茶髪がボクの落ちていた肩を叩いた。
指差す先には、光り輝くユウタのクリスタル。ボクらは顔を見合わせた。
「……戻ったみたい。MP」
「じゃ、やっぱり」
「“回復の水”、だね」
頷くユウタに頷き返すボク……と、茶……。
「サトルです。ジョブは……ナイト、かな?」
白が基調の胸当て、腰にはロングソード、背中には大きな盾を背負っている。
「ボク、タカヒサ。ジョブはシーフ」
「ユウタです。ジョブはヒーラー」
差し出された手を握る。
ボクらは、三人になった。
少し歩いたところで切り株が並んでいるのを見つけて、ボクらは自分の事を話した。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒