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 そうだよ。みんなみたいに普通の身体だったら、ちゃんと幼稚園にも学校にも行けて、友達もいっぱい出来て……。
 きっと今頃は、サッカーやドッジボールしたりして、毎日公園とかで遊んでるんだ。
「…… ちっく、しょ!! ……」
 自分の不甲斐なさに霞む目元を擦りながら、目の前の枝を払いのける。
「ユウタ!」
 大きな水の塊が、ユウタに襲い掛かっているのが飛び込んで、ボクは背中の矢を抜いた。
“パ・シュッ!!”
 水が散って視界が開けた瞬間に、ユウタの所へダッシュする。
「タカヒサ!」
 倒れこむようにユウタの隣に駆け込んだボクの身体に、
「大丈夫?」
 震える手で触れてくる。
「ユウタこそ……」
「ぼくは、へ……」
 “平気”と言おうとしてユウタが息を飲んだ。その視線を追って振り向いたボクの目に、元の形へと再編成されていく水の塊が映る。
「逃げなきゃ……」
 今の状態じゃ、とてもじゃないけど太刀打ちできない。
「ユウタ。逃げて」
 発作で身体が思うように動かないボクは、この際、お荷物にしかならない。だったら、ユウタだけでもこの場から離れさせようと、ユウタの肩を押した。
「ダメだよ!」
 そんなボクの手を取り、ユウタがその手を自分の肩にかける。
「ユウタ?」
「ダメだよ。一緒に行こうって、約束したじゃないか!」
 ユウタがボクよりも華奢な身体でボクを持ち上げる。
「一緒に、お母さんのところに、戻るって……」
 その言葉に、ただ肩にかかっていただけの自分の手に力をいれた。まだ、ゲームは始まったばかりだ。こんな所でゲームオーバーなんて、絶対にイヤだ。
「タカヒサ」
 呼びかけるユウタに頷きながら、ひざを立てる。
「大丈夫!」
「行くよ」
「うん」
 ようやく立ち上がった僕たちのすぐ後ろから、水の音が聞こえる。終結する水音にせめたてられ、ボクらは転がるようにその場から移動した。
 同時に、
“ザッ!”
 何か固い物が地面にささる音がして、二人同時に振り返る。
「何、これ?」
「……氷柱(つらら)?……」
 恐る恐る見上げた先には、さっきの“水の塊”。集まる水滴が、まるでドラゴンのような姿を形成している。
「タ、タカヒサ」
 震える声でユウタがボクを見た。
 こんなのが当たったら、死んじゃうよ!
 顔を見合わせ頷き合うと、ボクらは更に一歩踏み出した。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒