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道化師 Part 4

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16


早く帰りたい、ヒロは大丈夫だろうか?
テラスで待つ僕たちの所に龍也が走って来て「教室で昼食べてくれ、悪いな」と謝り走って行こうとした。
「龍也、何かあったの?」
一海に引き止められた龍也は
「ヒロが階段から足滑らせた。魁斗さんが来るから二人は教室で待っていて、ヒロの事は俺に任せて大したことないけど頭打ってるかもしれないから念のため魁人さんに見てもらうだけだから。ミユキ、教室の方がみんなの目もあるから、安心だし、もしお前に何かあったら俺、ヒロに殺されるよ、な、ごめんな。一海頼むな、魁斗さん来たら戻るから、帰りは一緒だからな」
僕は頷き、笑顔で大丈夫と言ったけど全然大丈夫じゃない。
兄が何かしたような気がする。
それでも、僕には何も出来ない。一海と僕の教室で龍也が買ってきたサンドイッチを二人で食べ、大丈夫だからねと心配する一海の言葉に頷き微笑んでいた。でも、一人になるとヒロが気になりぼんやりしながら教室移動で吐き出されるように教室を出て行くみんなの後をトボトボと一人着いて行く。僕の横にヒロがいない、心も体も凍えてしまいそうだ。ヒロに会うまでそんな事なかったのに。暖かさを知ってしまった僕は、昔の僕には戻れない

やっと授業が終わった、ヒロに会える。急いで教室に戻った僕の机の中、一通の手紙が入っていた。なんで、ここは学校だよ。手紙には兄の字で僕の名前が書かれていた。
手が震える、怖い、何処までも僕を追い詰めていく兄が怖くてたまらない。
『ヨシユキ、元気かな。草薙君の傷は癒えたかな。癒える前に階段から落ちたりしたから、また開いてしまったかな?次は誰にするかな、車に乗っていた私に似た男がいたね。彼もいいね。
ヨシユキ、お前が私の元に帰って来れば誰も傷つかないんだよ。
でも、今度は一海君も連れて戻って来なさいね。
早くしないとたくさんの血が流れることになるからね』
一海まで、どうしたらいいの?僕一人だけでも兄の所に帰らないと、ヒロだけじゃない、田所さんにまで悪魔の手が伸びる。他にも、と思うと早く兄の所に帰らないと恐怖が僕の心を支配していく。カバンを持ち教室を飛び出した。
裏門には多分田所さんがいる。正門から下校する学生に紛れて駅に向かう。僕の横に一台の車が着いて来て窓が開くとそこには兄がいた。
「乗りなさい、一海君はいないのかな。何故連れてこなかったんだ」
冷たい視線を向けられそれだけでビクッと体が怯える。
「お願い、一海には手を出さないで、僕が何でも言うこと聞くから、お願い」
車にしがみ付き懇願する。
「ミユキさん、駄目乗っちゃ」
走りながら叫び来る一海が見え
「来ないで、お願い」
叫ぶ僕に一海は、一人になんかしないからと抱き締め車から離れようとする。
「一海駄目なんだよ。僕がいると駄目なんだよ、お願い行かせて。一海は逃げて早く」
車から降りて来た男から一海を守りながら逃がそうとするのに、僕の力ではどうにもならなかった。
車に押し込められ、走り出した車。ミラーに龍也の姿が見えたような気がした。
一海が何かをしているのが見え、僕は男と兄の気を僕に向けさせる為、男の方に体の向きを変える。
「貴方は誰なんですか?兄さんの友達?何故兄に力を貸すんですか?」
「そんなの金に決まっているだろ」
にやけた笑いに寒気がする。
「兄さん、お願いだからもう止めて。僕はもう逃げたりしないから」
微かに笑い声が聞こえた気がする。
背筋が冷たくなるような笑い声が。




廊下の窓から一海が走っていくのが見えた。そしてその先、正門を出ていくミユキの姿、何かあったと駈け出す。
正門から飛び出した俺は駅の方に走り、目の前に一海とミユキが車の中に押し込まれる姿が見え、追いかけるが車は走りだしてしまった。
「くそっ、何やってんだよ!」
急いで田所に電話を掛けるが繋がらない。今度は兄、サクヤに電話を掛ける。
「もしもし、兄貴、一海とミユキが連れ去られた。田所さんに連絡付かないけど何かあったのか?」
『龍也、何やってるんだ!今どこだ?』
「なにやってるって、一緒に帰ろうとしたらミユキの後を追いかける一海が見えたから追い駆けたんだよ。車に乗せられたから走ってもダメだった。俺だって必死だよ」
『龍也、ごめん。お前を責めたりして。田所は、今は行けないから裕二に行かせたからそこで待ってろ。それで、どんな車だった?』
「白のワゴン、ナンバーも解る」
サクヤに車のナンバーを言い、裕二が来るのを待つ。
すぐに裕二の乗せた車が来た。
「龍也さん、乗ってください」
完全に車が止まる前に俺はドアに手をかけ飛び込んだ。
「兄貴に車のナンバー知らせてあるけど、俺たちは?」
「会社の方に会長もサクヤさんもいらっしゃいますからそちらに向かいます」
「裕二さん、悪いけどその前に俺の家に寄って、持って行きたいものがある」
「そんなに待てないですよ」
「すぐだからお願い」
解りましたと、しぶしぶながらもオーケーを出す。清水はその会話を聞きすぐ行先を変えた。
マンションに着くと急いでエレベーターに飛び乗った。
少しの間だが誰もいなかった部屋は埃っぽく感じた。自分の部屋に駆け込み、着替えをしてバイクの鍵を掴み、駐車場に停めてあるバイクのエンジンをかける。
裕二の車の横に着け、
「清水さん、後ろをついて行くから」
龍也の無鉄砲ぶりにニヤリと笑い車を出した。
「龍也さん、なんでみんな俺の言う事聞かないんだ」
裕二は不貞腐れてシートに深々と身を沈める。
龍成の会社の駐車場に止まった車の横にバイクを止め、二人の待つ部屋に急ぐ。
「龍也さん、会長やサクヤさんに怒られても俺は助けませんからね」
エレベーターに乗り込むなり裕二に、文句を言われる。
「大丈夫だって、バイクがあった方が動く時便利だろ」
「はいはい、わかりました」
会長室のドアをノックし部屋に入ると龍成が電話で何か指示を出している。
「兄貴、一海達は?」
「今、茂に探させてる」
なんだか落ち着かない、俺、トイレ行ってくると一旦部屋を出ると携帯の着信音がなった。一海からの電話だ。
「一海、今どこにいる?大丈夫なのか?」
『龍也、ミユキさんと車で移動している。ミユキさんのお兄さんに龍也に電話するように言われたの』
「はぁ?どういうことだ!」
『わかんないよ!』
電話の向こうで知らない男の声がかすかに聞こえる。
『龍也、今から鎌倉の別荘に行くから迎えに来るようにって』
「場所はどこなんだ?」
『朔弥さんに聞きなさいって』
「なんだよ、わけわかんねぇ。ミユキは大丈夫か?一緒か?」
『うん』
「解った、兄貴に聞いて迎えに行くからな。電話切ったフリして切らずにそのままにしておけよ」
『うん、早く来てね』
ガサガサと音がする、きっとポケットに携帯をしまったのだろう。なんとか途切れ途切れだが話し声が聞こえる。
ノックも忘れ、部屋に飛び込んだ。
「今、一海から電話があった。あいつが俺にかけさせたみたいで迎えに来いだと。何なんだよ、わけわかんねぇ。兄貴、あいつの鎌倉の別荘に向かってるって」
作品名:道化師 Part 4 作家名:友紀