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道化師 Part 3

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翌朝、目が醒めると隣の温もりは無く、自分の都合のいい夢だったのかと淋しく、やっぱり僕なんかをヒロが愛してくれる筈がないと思うと涙がポロポロと止めどなく湧き出してくる。
「ミユキ、どうした?体が辛いか?」
いつ来たのかベットの横にヒロがいて泣く僕に慌てている。
「ヒロがいないから夢だと思って、また一人だと」
しゃくりあげながら俺に手を伸ばすミユキを抱きしめ、
「ごめん、一人にして。もう離さない、ずっと俺の側にいてくれ」
ヒロは、自分には僕が必要だと、側にいて欲しいと言ってくれる、ホントは僕がいて欲しいと離したくないと思っているのに。僕を抱きしめ、子供をあやすように背中を摩る手は、優しく暖かい。
「体が辛かったらもう少し寝ていていいぞ。お腹空いたか?」
僕がヒロの腕の中で目を閉じ幸せに浸っていると、心配そうな声で聞いてきた。
「ヒロ、ありがとう、お腹空いた」
笑顔を向けると微笑み返してくれる。自分に向けてくれる優しい表情に幸せを感じ、嬉しくて涙が溢れる。
「ミユキ、そんな可愛い顔すると朝から襲いたくなる。俺の理性を試してるのか?」
ニヤリと笑い、手は素肌を滑っていく。
「ヒロ、やぁ、駄目、そんな」
何も身につけず寝たのを忘れていた。恥ずかしくて腕から逃げようとすると触れるだけの軽いキスで僕の動きを止める。
「俺のミユキ、愛している」
切ない瞳で独占欲を垣間見せるヒロが愛しくて、
「僕も愛してる、僕のヒロ、僕だけのヒロにしたい」
僕にも同じ思いはあるのだと唇を重ねる。
舌を絡め取り、互いを求め合い深くなるキス、吐息に熱さが混じり、愛された体が思い出したようにヒロを求め疼き出す。
「おいおい、朝から盛るな。若いなぁ」
早く飯を食えと捨て台詞を残し亮はリビングに戻った。
二人とも固まったぎこちない動きでお互いの顔を見て吹き出した。
「亮さん来てるなら来てるって言ってよ」
拗ねて言うと
「忘れてた」
ミユキの可愛く悩ましい姿にすっかりと記憶が飛んだ、などと笑って僕が着替えるのを手伝ってくれる。
着替えた僕を抱っこしようとするのを
「自分で歩けるよ、亮さんいるのに恥ずかしいよ」
僕が赤い顔でお願いすると、ホントに大丈夫か?とそっと支えてくれる。
学校では見せない、僕だけに見せてくる優しい素顔に堪らない幸せを感じる。


俺たちが部屋から出てくるのを見て
「ミユキ、大丈夫か?ココアは飲めるか?」
亮があれこれと俺たちというかミユキの世話をしようとする。
「亮さん、ミユキの事は俺がやるから、ゆっくりしていろよ」
仏頂面で亮の手からカップを取り上げココアと自分にホットミルクを用意する。
「なんだよ、俺にまでヤキモチか?心が狭いねぇ。俺に珈琲頼むな」
俺を揶揄い、子供にするようにミユキの頭を撫ぜ、良かったなと囁き、ソファで新聞を広げている。
「珈琲、こっちに置いておくよ」
「おぉ、サンキュー」
ミユキには、ココアをカウンターに置き、
「オムライスかパスタどっちがいい?」
「何のパスタ?」
冷蔵庫を覗きながら
「ほうれん草と鮭のトマトソースか、しめじとささみの和風とかぐらいしか出来そうにないな」
「ヒロ、そんな凄いの作れるの?」
「簡単だぞ、炒めて混ぜるだけだからな、どっちにする?」
「ほうれん草の方が食べてみたい」
わかったと早速、パスタを茹で始め、ソースの材料の下準備をする。
カウンターから乗り出して眺めるミユキを可愛いと思う。
パスタが茹で上がる頃には、ソースも出来上がり、軽く絡ませたパスタをミユキの前に置き、自分の皿を持って隣に腰を下ろした。
いただきますと手を合わせ、湯気のたつ暖かいパスタを口に運ぶ。
「美味しい、ヒロ凄く美味しいよ」
興奮して言うミユキが嬉しそうに笑みを浮かべながら涙をこぼす。
「僕、こんな美味しい食事初めてで涙腺が壊れちゃった」
涙を零しながら美味しいと何度も言いながら食べるミユキ。
「そんな忙しい食べ方しなくても、食べるか、泣くか、喋るかどれか一つにしろ」
俺も幸せで声に出して笑っていた。
俺たちが食事をしている間も亮はソファで新聞を読んでいる。
俺は、気になってチラッと視線を向けると、難しい顔で俺たちを見ていた。
何かあったんだろうか?朝から亮が俺の部屋にずっといる事自体普段と違う。
セフレの様な関係が続いていた頃は、二人で過ごす事はあったが。
その後も、俺たちがリビングで勉強を始めると、ノートパソコンを出し、仕事をしたり、キッチンで食事を作ったり、結局バイトの時間まで俺の部屋にいた。
「ヒロ、ミユキ、店まで車で行くぞ。片付けて着替えてこい」
亮はバイトが来る前に店を開けるから、俺が行く時間より早い時間に店に行く。
「えっ、まだ俺は早いよ。それに、ミユキも一緒でいいのか?」
ミユキもびっくりしている。
「ん、あぁ、二人に手伝って欲しい事あるからな、いいんだよ」
なんだか誤魔化された返事だったが、解ったと支度しにミユキを連れ部屋に行った。
「ヒロ、なんか亮さん、変じゃない?いつもヒロの側にいるの?」
ミユキが、そっと目を伏せ寂しそうにする。
「そんな事ないんだけど。俺たちに何をさせたいんだか?ミユキ、一緒に行ってくれるか?」
俯いた顔を上げ、伏せた瞼にキスをする。
「ヒロ、僕は一緒にいられるの嬉しい。僕に出来ることがあると亮さんが言うのなら、何でも手伝うよ」
ありがとうと今度は唇に触れるだけのキス。
支度を終え、リビングに行くと亮は携帯で誰かと話をしていた。
「先に車に行ってるから、鍵よろしく」
「ヒロ、待て。二人ともそこで待っていろ、すぐ終わるから」
俺たちを慌てて引き止めた亮は、簡単な返事を繰り返し電話を終えた。
「待たせたな。さぁ、行くか」
部屋を出る時も、マンションを出る時も、先を行き何か警戒している節がある。何かあると俺が感じた様にミユキも変だと思ったみたいで車に乗ってる間、俺の手を握りしめていた。
店の前で魁斗さんが手を振っている。
「ミユキ君、待ってたよ。助けて欲しいんだ」
ミユキの腕を掴み、店に入ってしまった。
「亮さん、どういう事なんだ?」
店に入ると奥から龍成さんとサクヤさんが出てきた。
「亮、遅い。ヒロも奥に話がある」
やっぱり何かあったんだ。
奥の部屋、難しい顔をする三人。
「ヒロ君座って、ミユキ君の兄貴の件、あの後の事を話しておこうと思ってね」
サクヤさんが、念のためと話を切り出す。
「何があったんですか?亮さんと電話で話していたのは、サクヤさん?」
「亮、茂からだったのか?」
龍成さんは、何の電話なのか知っている。
「あぁ」
短く返事をしただけで、言葉を飲み込む。
「亮、茂からの返事は?」
珍しく龍成さんが厳しい声になっている。
「消えた、警察の上が隠した節があるから、茂では無理だそうだ」
俺は、何の話をしているのか、ミユキの兄貴の話をしていたのでは。
「俺達が動くしかないって事だな。ヒロ、ミユキの兄貴が姿をくらました。どの程度ミユキに執着しているかだが、ミユキを守れ」
作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀