小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

七色の絵描き

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 

幼馴染


子供達の楽しげな声が聞こえる公園、ベンチに少年と少女が空を見上げていた。
「綺麗な虹が出たね」
「うん、綺麗で大きいな」
少年は少女より四つ程年上で少女の事を妹の様に可愛がっていた。
無邪気に虹を見上げていた子供の頃、でも、少女も少しづつ大人になり、少年の事を兄ではなく異性として慕うようになっていた。少女の気持ちに気付いた少年は、少女の気持ちは嬉しかったが、どうしても妹としか思えないでいた。
少年は、高校を卒業し離れた町の大学に行く事を少女に伝えた。
少女は手紙を書くねと、涙が頬を濡らしながらも笑顔を浮かべて見送った。二人の手紙のやり取りは、少女が高校を卒業しても続いた。
少女は、地元の大学に進みいつか少年と一緒になる事を夢見ていた。でも、少年からの手紙が一週間に一度になり、一ヶ月に一度になり、そして年賀状が届くだけとなった頃、少女はもう少年はこの町に帰ってこないのだろうと思い始めた。
とうとう年賀状さえ届かなくなり、少女は少年の事を忘れようと心に決めた。
よく晴れたある日、少女は少年とよく遊んだ公園のベンチで二人で見上げた空を眺めていた。
「今日は虹は見れないわね」
ポツリと独り言を漏らしていた。
「お嬢さん、虹は此処にあるよ」
と、いつからそこに居たのか少女より少しばかり年上の青年がキャンパスに虹の絵を描いていた。
「あら、ホント。綺麗な虹だわ」
少女は、自分の住む街並みに被さる様に描かれた大きく綺麗な虹の絵を見て微笑んだ。
「この虹に乗ってあの人の所に行けたらいいのに」
寂しそうに笑う少女。
「遠くの町に恋人がいるのかい?」
「違うわ、恋人ではないけど大切な人」
「会いには行かないのかな?」
「そうね、行かないわ。でも、一言伝えたい事があったの」
「どんな言葉を贈りたかったのかな」
少女は、悲しそうに笑うと内緒よと囁き、もう帰るわと公園を歩いて行った。
一人取り残された青年が手を伸ばすとその腕に真っ白の鳩がとまった。
「彼女の大切な人は何をしているのかな」
そう鳩に問いかけると鳩は空高く飛び立った。

少女は、不思議な空気を纏った青年だったわと、思いながら家に帰っていた。そして、青年に語った恋人ではないけど大切な人の事を考えた。彼は、私の事、忘れているかしら?それとも…。

次の日も青空の綺麗な心地良い風が少女の髪をそよがせていた。
「お嬢さん、今日も心地良い日ですね」
あら、いつの間にと思ったが、にっこりと「ほんとに気持ちがいいわ」
と青年に笑いかけた。
「今日も虹の絵を描いていたの?」
「はい、私は虹を描く絵描きですから」
「虹の絵描きさんなんて面白い事を言うのね」
「可笑しいですか?でも、あなたの笑顔は素敵です」
「まぁ、ありがとう」
頬を少し染め笑う少女は、儚げに見える。
それから、毎日ほんの少しの時間青年と語らうようになった。
青年が言うようにいつも描いているのは虹の絵ばかり。
数日雨が続き、やっと晴れた日、少女は青年に
「今日はお別れに来たの」
「もう、ここには来れないのですか?」
「ごめんなさい。そのお願いがあるのよ」
少し言い辛そうに少女は
「虹の絵を一枚頂けないかしら?」
青年は、クスクスと笑うと
「いいですよ。一番大きく綺麗な虹を貴方にプレゼントしますよ。その虹に乗って会いに行けるように」
そんな事は無理だわと思いながらも少女はそうね、行けるかしらと悲しげに空を仰いだ。
それから一つの季節が過ぎ去った頃、年老いた老人が青年の所にやって来た。
「突然、申し訳ないが貴方は虹の絵描きさんかい?」
不思議そうに、それでも柔かな笑顔で
「はい、そうです。貴方は?」
「私は、よくここに来ていた娘の祖父です」
「あゝ、お嬢さんはお元気ですか?」
老人は悲しげに俯くと
「孫は病院にいます」
そして、顔を上げ意を決したように
「迷惑は承知の上で、孫に会ってもらえないですか?」
青年が不思議そうに首を傾げ
「重い病気ですか?」
「はい、よく貴方との話を嬉しそうに話すので、あんな悲しげな顔で逝ってほしくないと、年寄りの我儘です」
青年は、老人の手を取り微笑みかけると
「行きましょうか、連れて行ってくれますか?」
老人は自分の手を取ってくれた青年に涙を流し頭を下げた。
連れられて来た病院は、町の外れにひっそりと立つ小さな病院でした。
青年は病室の前で
「二人だけでお話してもいいですか?」
老人が頷き廊下を歩いて去って行く姿を見えなくなるまで眺めていた。
「入りますね」
静かにノックをして病室に入ると、少女は、細っそりと痩せ頼りなげな笑みを見せ
「絵描きさん、来てくださったの?どうして?」
「貴方とお散歩をしようと思いまして」
ふふっと小さく笑った少女は
「もう、私は動く元気はないわ、ごめんなさい」
それでも、青年は大丈夫ですよと微笑み、壁に飾られている虹の絵にそっと触れ、窓の方に手をかざした。
窓が開きカーテンがふわりと踊った窓に七色の綺麗な大きな虹が伸びていきます。
「さぁ行きましょう、貴方の大切な人に伝えたい言葉を伝えに」
青年は少女に手を差し伸べ笑いかけます。
少女の体は昔の元気な頃の姿に、ベットから足を下ろし青年の手を取りました。
二人が歩く先、虹はドンドン伸びていきます。
下を見下ろした少女は嬉しそうに
「あら、電車が走っているわ。線路が何処までも続いているみたいね。まるで、終わりがないように。必ず終わりはあるのにね」
絵描きの青年は、そうですねと微笑み
「終わりのないものなどないでしょうけど、終わりは始まりでもあります。貴方も今から始まるのですよ」
地上の世界だけが全てではないですよと空を見上げ囁きます。
いつの間にか虹は一つの小さな窓にたどり着いていました。
「貴方の大切な人がそこにいますよ。勇気を出して」
「ありがとう、絵描きさん」
少女は、青年と小さな命を抱きしめる優しげな女性の前にトンと足を踏ま出しました。
驚く青年に幸せな笑顔で
「久しぶりね。元気な顔が見れて嬉しいわ。隣の方が奧さん?子供は男の子?女の子?」
子供の顔を見ていい?と首を傾げる姿が妹の頃のままで、優しい声でいいよと言っていた。
女性が腕の中の宝物をそっと少女の前に、女の子よと微笑んでくれている。
「兄さんと幸せになってね」
少女は、そう呟くと幸せそうに微笑んだ。
「兄さん、素敵な家族だわ。私も幸せ、兄さんが幸せで。大切にしてあげて」
青年は、少女を一人にした事をとても気にしてました。だから、少女はそれがとても心残りで、どうしても伝えたかった。
私は、貴方に妹として沢山の思い出と愛を貰って幸せだと。だから、謝る必要などないのだと。
「じゃ、さよなら」
青年の前から少女も虹も消えていました。窓から身を乗り出し少女をさがします。そこには見慣れた街が広がっているだけでした。
ぼんやりと外を眺める青年に妻は
「お家にお電話してみたら、気になるのでしょ」
青年は妻の笑顔に励まされ、電話をかけ、少女の事を尋ねます。
作品名:七色の絵描き 作家名:友紀