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マリオネットの町

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呆然としている俺の手を取り、階段を駆け下りる。俺は、訳が分からず少年に引きずられるように足を進めた。どうやってここまで来たのかよく覚えていない。気が付くと少年と会ったところぐらいまで走ってきていたみたいだ。かなり息が上がって苦しい。
「おじさん、こっちだよ」
少年は、もう俺の手を放していた。ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返す俺に着いて来るように言い置くとさ河原に下りて行った。
そして、川の中に入っていくのが見えた。
「おい!危ない!何してるんだ」
どんどん川に入っていく少年をあわてて追いかけた。確かに水の中に入ったはずなのに冷たさも感じない。
何とも気持ちの悪い、ぐにゃりと歪な空間。吐き気がこみ上げてきた瞬間、ふわりと暖かい風を感じた。吐き気はおさまっていた。俺は目の前に広がる景色に言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。
「おじさん、ここまで来たら安心だよ。あそこに座ろうか」
俺は、目の前に広がる荒野、否、廃墟に目を奪われていたが、少年の言葉にあそこってどこだと思い少年の指差すほうを見た。そこには元の形が何なのかわからない瓦礫が点在していた。
少年が歩き出したので俺も後ろを着いて行った。比較的大きな座れそうな瓦礫に少年は腰を下ろすのを見た俺も隣に腰を下ろした。
「おじさん、目の前の景色、どう思う」
目の前の景色、見たことのないような、でも、見たことのあるような景色、崩れかけのビルがあちらこちらに見え、朽ち果てた車らしきものが点在する。
「ここはどこなんだ?俺は・・・」
掠れた声を詰まらせた。
「ここは現実の世界。おじさんが今までいたのは虚実の世界だよ」
「虚実の世界?」
「過去の大人たちはしてはいけないことをして、自分たちの世界を壊したんだよ。その結果がこれ」
少年が言うことがよくわからない。してはいけない事とはなんだ。
解らないと眉間にしわを寄せ視線を彷徨わせる男に少年は
「核を使ったんだよ。そして人類は全滅に近い状態になった。わずかに残った人たちは、自分たちのクローンを作り、町の周りに次元の壁を作り、生活させたんだ。感情を一切持たないマリオネットの世界をね。そして少しづつ人を増やしていき、そこに住む人たちは自分が普通に家族を持ち子孫を増やし生活するようになるんだけど、時々おじさんや僕みたいに次元の歪みに同調して感情のコントロールを外れてしまう人間が出てくるんだ。そんな人間を監視、排除するのが監視員。コントロールが外れた時にマザーは、その人間のクローンに記憶を植え付け送り込むのさ。秩序を守るためにね。マザーは人間に感情があるから戦争が起こると認識したんだ。もしかしたらマザーが人類を滅ぼそうとしたのかもしれないね。おじさん、これからは自分の意志で生きていくか考えなきゃいけないんだよ」
少年は遠くに浮かぶ月を見ながら話していたが、俺のほうに顔を向け、この後どうするのか自分で決めろと、まっすぐな強い視線が問い掛ける。
「ここで生活できない時はどうなるんだ?」
「向こうの世界に帰って、監視員に捕まれば記憶を消去され別の家族を持ち別の生活が始まるんだと思うよ。感情のない人形の世界でね。どちらが幸せかなんて僕にはわからない。だから、自分で決めるしかないんだ」
それだけ言うと少年は、腰を上げ
「今日は、僕の家に来なよ。お腹空いただろ」
歩き出した少年の後を追いかけた。少年の言うようにお腹が空いたような気がする。今まで感じたことのない気分だ。これが、感情なのか、まだ解らないでいた。考えるのはお腹が満たされてゆっくり考えよう。初めての事なのだから、この感覚を楽しみながら考えるのもいいかもしれない。心地よい風が頬を撫ぜ、髪を揺らす。未知の世界、未来に一歩踏み出した、わくわくする自分がそこにいた。
作品名:マリオネットの町 作家名:友紀