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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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「おめでとー!」
「さー食べよう食べよう」
「主将にはこのチョコプレートのっけますね」
「部活後のケーキとか最高だわ~」
「いただきまーす」

紙皿に配られたケーキを、みんなでわいわいつまむ。自分のために、部員が一人も欠けることなく集まってくれている。それが本当に信じられなくて、嬉しくて、伊吹は少しだけ自信を持てたような気がする。こんな自分でも、こうしてみんなを笑顔にできたのなら、と。
賑やかな光景を、夢心地で見つめていると、隣で瑞が尋ねてきた。

「ケーキどう、先輩。一年と、二年の先輩たちで、朝から仕込んだんだって」
「…うまいよ」

噛みしめるように、甘いクリームを口の中で溶かす。こんなにケーキをうまいと思ったのは生まれて初めてだ。まだ夢の中にいるような幸福感に満たされていて、視界がぼやけているような錯覚と、足元がふわふわしたような感覚が消えない。

「お誕生日おめでとうございます」

「…ありがとう」

うまく伝えられなくても、気の利いた言い回しじゃなくても、それでも伊吹の思いは伝わったと思う。瑞の横顔は穏やかで、ちゃんとわかってますよと言いたげな、そんな表情だったから。

一つ年を重ねるたびに増えていく思い出。大切なもの。
いつか思い出を忘れてしまうときがきても、自分を先へと歩ませる力になる。

だから恐れななくてもいいのだ。忘れることを。失うことを。

本当の意味でそれを知るのは、悲しみを苦しみを、たくさんの別離を乗り越えた大人になってからだけれど。

今はただ、幸福を噛み締めているだけで、いい。







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