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道化師 Part 1

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ベットで眠る加納は相変わらず苦しそうな息遣いだ。額に乗せたタオルは氷が解けてびっしょりになっていた。袋に入れた氷を新しいタオルに包み乗せる。
(何でこんなことになったんだ。誰が…..。)
今はそんなことを考えても仕方ない。加納の熱を下げるのが先決。二人が帰ってくるまでにすることはないか考える。
「いやぁぁぁぁ…..」
突然、加納が奇声を上げ暴れだした。
「大丈夫だから、俺が誰か解るか。もう大丈夫だから。俺がいるから」
暴れる体を抱きしめるが、腕から逃れようと思い切り俺の腕に噛みつく加納。それでも、抱きしめ何度も何度も大丈夫だと囁いた。荒い息に混じり叫ぶ声が途切れ、糸が切れるように体がぐったりとした。
「嫌だぁ…..もう許して….お願い….兄さん….」
気を失う前につぶやいた信じられない言葉に唖然とした。

抱きしめる体はまだ熱く、呼吸は幾分か穏やかになったような気がする。早く二人が帰ってこないだろうか、心細くなって俺まで子供のように泣きそうだ。
加納を抱きしめたままベットに横になっていた俺は、木島さんに体を揺さぶられ、はっとした。不覚にも寝てしまっていた。きっと、木島に何か言われえると思っていたのだが、真面目な顔で
「ヒロ、点滴するからベットから降りれるか? 」
「うん、横向きに寝かせた方がいいかな?」
背中が酷いということを思い出し躊躇っていると
「少しうつ伏せになるように降ろしてあげて、そうヒロ君枕を少し深めに顎が少し上がる感じで。うん、OK 」
鷺沼さんが、手を添えてくれていたので、ベットから降りることができた。
ベットの側を鷺沼さんに譲り、加納の治療をするのを眺めていた。
背中の治療ををするために服のボタンに手をかけたが、心配そうに立つ俺に微笑み
「ごめんね、亮が話したいことがあるみたいだからリビングで聞いてあげてくれるかな? 」
木島も自分の失態をごまかすように
「さっきちょっと気になることがあったんだ。ヒロ、ちょっと向こうで話そうか」
加納の様子も気になるけど、鷺沼さんは俺に部屋を出てほしいみたいだから、木島の話に興味があるそぶりで部屋を出た。
「ヒロ、すまんな」
「木島さんが謝る事なんて何もないよ。加納の傷は俺に見せない方がいいほど酷いのか? 」
「酷いのは確かだが、随分と古い傷もある。何度も繰り返されてきたものだろうな」
「さっき、木島さんたちがいない間に加納が暴れて….許して兄さんって。肉親があんな酷い事するのか?」
「兄さんか…..このマンションのエレベーターの前で、魁人の診療鞄をみて笑って会釈してきた男がいたんだが…..嫌な感じの男だった」
言葉をあまり濁すということをしない木島にしては、なにか考えながら口に出しているという感じだった。木島が嫌な感じと言ったきり口を噤んでしまったので、俺も何となく木島が会ったという男の事を想像した。そのイメージが数日前に会釈をされた冷たい感じのサラリーマンとかぶった。
「木島さん、俺ももしかしたらその男に会ってるかもしれない。加納が帰ってきてないか見に行ったその途中の通路で会釈をしてきた男なんだけど、俺は見覚えがない」
「同じ男かもしれないな。相手さんはお前の事知っているんだろう」
寂しげな表情を時折見せる加納、あれはあの男の事を考えているんだろうか、なんだか胸がむかむかする。
「ヒロ、そんな怖い顔するな。お前あの子の事好きなのか? 」
木島の言ったことに驚いた。そんなことない、俺は….。
「自分で気づいてなかったのか?気になって仕方ないんだろう?自分の気持ちに正直になれ、そのうち解ってくるさ」
「俺は、加納を抱こうと思えば抱ける。誰でもいいわけじゃなく加納だから優しく抱いてやりたいと思ったこともある。それは好きだということなんだろうか?解らない」
「そうか、お前も大人になったな。」
俺の頭をポンポンと軽くたたき優しい眼差しで見られると恥ずかしくて顔をそむけた。
その時、そっとドアが開き穏やかに笑う木島と顔を赤くする俺に
「亮、こんな時に何やってるんだ?ヒロ君を口説いてたんじゃないだろうね」
僅かだが苛立ちの混じる声音に俺はあわてて言い訳をしていた。
「違います。木島さんが父親みたいに優しいこと言うから照れただけです」
「おい!ヒロ父親って、俺はそんな年じゃないぞ」
「似たようなもんじゃないか」
まだ働き盛りだとか、兄弟ほどしか離れてないだとか言い合いになっていると
「はいはい、二人とも解ったから静かにね」
さっきまで怖い表情だった鷺沼さんが俺達の間に入ってくすくすと笑っていた。
「ほんとに親子喧嘩。でも、兄弟喧嘩ぐらいにしてあげてね、ヒロ君」
首をかしげながら微笑む鷺沼さんに俺は、木島の時とは違う意味で真っ赤になった。
「魁人、お前は微笑むな!それは子供には凶器だ! 」
何バカなことを言ってるんだと鷺沼さんは、木島の頭に軽くキスをした。
ほんのり顔を赤らめてる木島を初めて見た。こんな二人を見てるとさっきまでの苦しい気持ちがほっと楽になっていた。

作品名:道化師 Part 1 作家名:友紀