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道化師 Part 1

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2


学校が始まり、バイト先を出る時間も早くなり、睡眠時間が増えたせいだろうか、うるさい鳥の囀りに浅い眠りから覚まされる。目覚ましから起きろのサインは出されてはいないが、寝直すまでもなく起こされるだろう時間なのは確かのようだ。
「仕方ない、起きるか~」
 声に出して、自分に勢いをつける。自分に言い聞かせるような独り言が、最近多くなってきた。
「今日は早く起きてしまったし、自転車で行くかな 。」
俺は、簡単に朝食を済ませ自転車置き場に向かった。

自転車置き場には先客がいた。加納が地面に四つんばいになって、植え込みに頭を突っ込んでいる。
「そんなところに座り込んで何やってんだ。」
加納は、植え込みから顔を上げ、状況とは不似合いなにこやかな声で、
「あ~、おはよう。」
「だから、おはようじゃない。何やってんだ。」
「うん、落とした自転車の鍵を、蹴飛ばしちゃって・・・」
 俺は、その言葉を聴いて、ため息をついた。
俺は自転車に跨り、
「後ろに乗れ!早くしろ!」
 彼は、ぽや~と真昼の行灯みたいな表情で、俺を見上げたまま動かない。
「いい加減にしろ!ちゃっちゃっと動け!」
「はい!」
彼は、弾かれた様に後ろに飛び乗った。
「鞄は置いていくのか?」
「あ~忘れてた~」
 何とも呑気な声の後、はははと作り笑いをしながら、鞄を抱え後ろに戻ってきて、俺の腰に腕が回る。
俺は、それを確認して、自転車を走らした。
『こいつは何なんだ。宇宙人か~。俺には理解できん。』

 心の中で叫びながら、ペダルを扱ぐ足に苛立ちが乗り移ったように力が入る。
「はや~い、はや~い、弘樹すご~い。」
 (弘樹だと?いつの間に呼び捨てにしゃがって!)
俺の苛立ちなんか知ってか知らずか、脳天気な歓声が風に流されていく。
脱力と苛立ちを乗せ、一路自転車は学園まで疾走したのは、言うまでもない。
同じマンションに住むからといって加納と仲良くなることもなく生活は、カセットテープがリピートし続けるように過ぎていくだけ。

携帯から流れる聞きなれないアニメソングに覚醒しかけた脳が拒否しようと眉間にしわを作り、うめき声が零れる。
目覚ましを壊したと龍也に告げた時、携帯の目覚ましセットしておくよと言われたような、
だが、アニメソングは勘弁してほしいところだ。
 目覚ましを止めた後も耳に残るアニメソングにイライラが募り、勢いよく起き上がり顔を洗うが、鏡に映る不機嫌な顔に溜息が出る。
身支度を整え、学ランの上にエプロンを引っ掛け、朝食を作る。プレーンオムレツとトーストと牛乳。弁当は昨日の残りのてんぷら、きんぴら、白和え、玉子焼き、ししとう・・・料理をしてる間に少し気分も落ち着き、弁当箱を鞄に放り込む。

 今日は帰りに買い物して帰らないとな~と所帯じみたこと考えながら玄関に鍵をかけ、ふと癖のように、また、加納が落ちてくるのではと階段の上を見上げてしまう。
そんなことが何度もあるのは嫌だが、なんだか不思議と気にかかる。
 学園では、俺から話しかけるのは、龍也と一海以外誰もいない。もちろん話しかけてくるものもいない。学園の外での加納は屈託のない笑顔で話しかけてくるが、校内では、一切話しかけてこない。それどころか視線さえ合わそうとしない。
俺にとってはその方が楽なのだが、こうも態度が180度違うと訳の解らない苛立ちを感じる。

 放課後、龍也が一海を連れ、教室にやってきた。今日は、このままバイト先である「シャドウ」に向かうためだ。
「ヒロ、もう帰れるか?」
そんな龍也の呼びかけに
「あぁ」と片手を挙げて答える。
龍也の横では、一海が恥ずかしそうに会釈する。
そんな一海の仕草がほほえましく、可愛くて俺は顔が緩む。
龍也は、珍しく優しい表情を見せた俺に、
「一海は俺のだからな」
と、笑いながら突っ込みを入れてくる。
 内心、俺がドキリとした事など気づかずに一海を促し、廊下を歩いていく。
 二人の後姿を眺め、俺はいつまで耐えれるだろうと心の動揺を覆い隠す。そんな俺達を教室の隅で冷めた表情で見ていた者にも気づいてはいなかった。

作品名:道化師 Part 1 作家名:友紀