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白と黒の天使  Part 1

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施設の人が僕を抱きしめる手が震えていた。
この人は何故、こんな僕のために涙を流すの?
「泣かないで、僕は大丈夫だから。僕は悲しくも辛くもないよ。だから泣かないで」
一生懸命笑った。
お兄ちゃんのお家から少し遠くなって毎日は会えなくなった。でも、会えない間の寂しさより、会えた時の嬉しさが何倍も大きかったから、僕はいつも笑顔でいれる。
色んな話しをした。お兄ちゃんのお誕生日を教えてもらって、施設のシスターにケーキを作ってもらう約束までした。
でも、その約束は果たせなかった。
お兄ちゃんのお父さんが大阪に転勤が決まって、出発の日僕に会いに来てくれた。
「友紀、ごめん。学校が休みになったら会いに来るから。絶対来るから。会えない時は電話で声を聞かせて、お願い」って額に約束のキスを残して行ってしまった。
僕は、約束ねと笑顔でバイバイした。もう会えないかもしれないと思っても、僕の事、忘れてしまったとしても、僕は忘れない、大好きだから。

お兄ちゃんからの初めての電話が
「今さっき着いた。泣いてないか?」
だった。僕は、声を出して笑った。
「泣いてないよ。僕、そんな子供じゃないもん。お兄ちゃんこそ泣いてない?」
「友紀は見てたのか?俺、少し泣いた」
「そうなの、お兄ちゃんでも泣くの。僕も泣いてもいいの?」
「いいさ、寂しい時も悲しい時も嬉しい時だって、俺には隠す必要なんてないよ」
「でも、泣くとお母さんは叩く。泣くのはいけない事なんでしょ」
少しの間を置いて
「男は、我慢しないといけない時もあるけど、いけない事なんかじゃない」
「お兄ちゃん怒った?」
「友紀に怒ったわけじゃないから、大きな声出してごめんな」
「お兄ちゃん、電話ありがとう」
「また、かけるから」
「うん」
バイバイと受話器を置いた。
嬉しいけど、寂しい。

週末には電話でお兄ちゃんとポツリポツリと話をする。
学校に行くって話したら、良かったなと喜んでくれた。だから頑張ろうと思った。
集団で行動する事に慣れていない僕は、最初は話しかけてくる子もいたけど、すぐに言葉が出てこない僕にとろいヤツと誰も寄ってこなくなった。
授業もよくわからないから、先生からも注意され、
「幼稚園からやり直した方がいいんじゃないか?そんなに馬鹿だから親に捨てられるんだよ」
教室中で笑い声が広がった。
『僕が馬鹿だから捨てられたの、お母さんはだから必要ないって言ったんだ』
僕は恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくなった。

夏休みがやって来た。学校は僕には楽しい所では無かった。いつも笑っていよう、誰も悲しまないように。そう誓ったのに学校では笑えなくなっていた。
でも、この事はお兄ちゃんにもシスターにも内緒なんだ。
お兄ちゃんは、中学生になって部活が忙しくて話しが出来ないでいた。
きっと夏休みも会えないと思っていたのに、喜びは突然やって来た。
シスターのお手伝いでお庭のお掃除をしていた。
「友紀、来たよ。元気だったか?」
懐かしい優しい声に僕は抱きついて泣いていた。
「寂しかったよな。ごめんな。」
優しい手は僕の背中をポンポンとあやす様な動きをする。
「お兄ちゃん、僕、赤ちゃんじゃないよ。すぐ子供扱いするんだから」
嬉しいのに涙の残る目で拗ねた顔をする。
「愁、俺の事いつになったら紹介してくれるんだ」
突然僕の後ろで声がしてビックリして肩が揺れた。
「 周、友紀を驚かすな」
「なんだよ、俺が悪いんか。俺も友紀ちゃんに、お兄ちゃんって言って欲しいだけなのにさ」
振り返ると、お兄ちゃんとは違ったふわりと優しく微笑む少年がいた。
「友紀、こいつは真瀬周だ。俺の幼なじみ」
「お兄ちゃんと同じ名前なの?」
周と紹介された少年は、字が違うが同じだなと笑いかけてくれた。
「お兄ちゃんが二人になった」
嬉しいか?と聞かれ頷いた。
僕は二人のお兄ちゃんと食事をしたり、遊んだり、勉強もいっぱい教えてもらった。

明日お兄ちゃんが帰るから、買い物に出掛ることになって、僕の両手は二人のお兄ちゃんの手に包まれていた。
「愁兄ちゃん、お土産何にするの」
「親父の好きなきんつばでも買うかな」
「友紀ちゃん、こんなデカい男二人にちゃん付けは恥ずかしいから愁兄アンド周兄でいいで」
愁兄ちゃんも周兄ちゃんも二人とも180ある。照れ臭そうに笑う周兄ちゃん。
「うん、愁兄アンド周兄だね。僕のことは呼び捨てにしてくれるならいいよ」
「よっしや、商談成立」
楽しくて笑っていた。
でも、刺すような視線を感じ振り向くと、同じクラスの男子が数人、こちらを見ていた。
僕の体は一瞬にして凍りつくように固まった。
近づいて来た男子が
「何ヘラヘラ笑ってんだ、捨て子のくせに。馬鹿じゃないのか」
「お前誰だ?俺の友紀になんか用事か?用がないなら行け」
低い凄みのある愁兄の声は、見た目の鋭さを際立たせ、近づいて来た少年以外は走って逃げていった。
愁兄は僕を庇うように肩を抱きしめていたから、周兄が少年の前に詰め寄り
「俺はこの近くが家だ。今度友紀にちょっかい出したら」
「出したらなんだってんだ。姫を守るナイトのつもりか?」
と、真っ赤な顔で反撃してきた。
周兄は真っ赤な顔で食ってかかって来た少年の肩に手を回し拘束するとニタリと笑みを浮かべた。
「なぁ、お前さぁ、可愛いよな」
「お、お、俺は男だ。可愛いなんて言うな」
「可愛いよ。友紀を苛めたら涙流すほど恥ずかしい事しちゃうよ」
耳許で囁く様に言われ、
少年は腰を抜かした。
「きゃははは、は、は、めっちゃ笑える。お前さ、今度遊びに行こうぜ。この後、飯食いに行くけどお前も来る?」
「周、お前、勝手に」
僕は、周兄に揶揄われあたふたしてる彼が可哀想になり
「愁兄、僕はいいよ」
「ホントにいいのか?」
周兄は僕がいいと言ったのを聞き、決定とばかりに
「さぁ、行くぞ。それより、お前名前は?友紀ちゃん、知ってる?」
「えっと………ごめんなさい」
「きゃははは、お前可哀想」
「周、いい加減にしろ!」
少年は歯を食いしばり泣いていた。
「あっ、悪い。ごめんな。俺がなんでも奢ってやるからもう泣くな」
自分が泣かしておいて、立たせた少年を抱きしめ慰めてる。
そんな周兄を不思議な人だなぁと思うが嫌いでは無かった。
「駅前のファミレスにしようぜ」
周兄は、そう言うと少年の手を取って上機嫌で歩き出した。
僕の横で愁兄の大きなため息がして、僕は笑っていた。
席に着くなり
「なぁ、お前名前は?教えろよ」
「な、な、なんでだよ」
「えっ、そりゃお前の事気に入ったし、ずっとお前なんて言われるの嫌だろ」
少年は、嫌だと悔しそうに下を向いていた。
「ごめんね。僕、クラスの誰も名前覚えてなくて。教えてもらってもいい?」
少年は、僕の声に真っ赤な顔を上げた。
「俺、坂下広海」
「ヒロミってどんな字書くんだ?」
周兄ちゃんが胸ポケットに差していたペンとナプキンを渡した。
「広い海か、いいな」