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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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 海上と航空の両自衛隊では、航空学生と呼ばれるパイロット養成制度を設けている。高校三年次に航空学生の選抜試験を受けて合格すれば、二年間の座学研修などを経て、二十一歳になるまでには操縦桿を握ることができる。
「でも、二次で落ちてしまって」
 一次の筆記試験は余裕で突破したものの、次の段階で不合格となった日垣は、国立大学で航空工学を学ぶ道に進んだ。しかし、パイロットになる夢を諦めきれず、二年次に、再び航空学生を、さらには、国土交通省所管のパイロット養成機関である航空大学校と、防衛省が管轄する防衛大学校をも受験した。
 防衛大学校は、幹部自衛官候補を育てる教育機関だが、ここを卒業した後に航空機操縦の訓練を受けてパイロットになる者も、若干ながら存在する。日垣にとっては、最後の保険のようなものだった。
 結局、合格したのは防衛大学校だけだった。日垣は、親の反対を押し切り、それまで通っていた国立大学を辞め、二浪したような格好で防衛大学校に入校した。

「防大(防衛大学校)で航空要員になることが決まった時は、てっきり、パイロットになれると信じていたんだけどね……」

 一般大で二年、防衛大学校で四年、幹部候補生学校で半年を費やした日垣が、ようやく飛行要員に志願する段階にたどり着いた時には、初めて航空学生を受験してから六年半が過ぎていた。
「幹候(幹部候補生学校)を卒業する時に、最終的な航空身体検査を受けて、そこで初めて、聴力に問題がある、と言われたんだ」
 その時点で大空を飛ぶ夢は完全に消えた、と懐かしそうな目で語る日垣の様子を、美紗は遠慮がちにうかがい見た。普段のやり取りに特段の支障があるようには思えなかった。日垣は、美紗の疑問を察したように、言葉を続けた。
「日常生活には全く問題ないんだ。ただ、仕事で飛ぶパイロットになるには、いろいろな身体条件をクリアする必要があって、空自の操縦課程に入る時の航空身体検査は、特に厳しいらしい。私は、もともと聴力が規定ギリギリだったんだろう。航学(航空学生)と航大(航空大学校)がどちらも二次落ちだったのも、たぶん、そのせいだ」
「それを、ご存じないまま、六年もずっと……」
 言葉に詰まる美紗の横で、日垣は星のない夜空をふり仰いだ。
「もし、一回目に航学を受けた時点で不合格の理由を知ることができていたら、通っていた大学を辞めて自衛隊に入るという選択は、しなかったかもしれないね」