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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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 問題の3等空佐の下で実際に勤務していた高峰の話は、何とも生々しかった。恐ろしく管理能力に欠ける管理者は、支離滅裂な指示で直轄チームを振り回しては、各調整先ともめ事を起こし、その尻拭いをすべて部下に押し付けた。そんな醜悪な話の数々に、小坂はすっかり顔色を変えた。
「いやー、恐ろし。私がCS(海の指揮幕僚課程)に一発合格してたら、『暗黒時代』の直轄チームに来てたかもしれないんですねえ」
 指揮幕僚課程の選抜試験に二回失敗している小坂は、「二年足踏みをしたおかげで難を逃れた」と安堵の表情を浮かべた。
「あなたの前任者は、当時はうちで一番若かったから、その先任にいいように使われて、ホント気の毒だったよ」
「富さん、あのアホ先任のこと、『無能、無責任、階級主義』って言ってたからね。しっかしホント、大変だったんだなあ。一杯おごってやりたいけど、今、北海道だもんな」
 宮崎は、親友の富澤3等陸佐が最悪の環境で過ごした数カ月を想像し、しみじみと独り言ちた。
「で、その空の3佐ってのは、どうなったんです?」
 遠慮がちに聞く小坂に、松永は首を掻き切るジェスチャーをして見せた。
「着任三カ月くらいで、な」
「そ、それはずいぶん、早いですね……」
 小坂は素直に当惑の表情を見せた。3佐クラスの自衛官は、ひとつのポストに最低二年は在籍するのが通例だ。一年で異動の場合は「やや問題あり」と解釈される。一年待たずしての異動ともなれば、特に不祥事を起こしていなくとも、人事上かなりのマイナスとなった。

「いや、遅いくらいだったよ」
 会話に入ってきた日垣は、腕を組んで、パイプ椅子に背を預けた。
「私が対処を迷っている間に、あやうく富澤をうつ病にするところだった」
「はあ、その昔の先任って人、ずいぶん強烈なお方だったんですねえ。で、その御仁と今の空幕副長、何か関係が?」
「従兄なの」
 日垣に変わり内局部員の宮崎が、左隣にいる3等海佐に耳打ちした。