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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「アホ先任の従兄がご出世して、この七月で空幕副長になったってわけ」
「うわ、最悪。それで、その従兄さんの将官とひと悶着?」
 宮崎は銀縁眼鏡を光らせて小さく頷いた。小坂は口をぽかんと開けて第1部長をしげしげと見たが、日垣のほうは無言で笑い返すばかりだった。
「で、問題の先任ってのは、無事に追い出せたんですか?」
「追い出せたけど、無事とは言い難いね。アホ先任はともかく、従兄閣下のほうは権力かざして後々まで嫌がらせしてくるし。ま、ドロ臭い話が聞きたかったら、続きは飲み屋で」
 銀縁眼鏡の下でニヤリと笑う宮崎に、今回が初めての中央勤務となる小坂は、「そんなこと、ホントにあるんですねえ」と眉をひそめた。そこに、片桐がたまりかねたように口を挟んで来た。
「僕も、そんな話、ここ来て初めて聞きましたよ。将補って、部隊なら『雲の上の人』でしょう? そういう人が、バカな親族をかばって嫌がらせするとか、普通あり得ませんよ!」
「現実には、いろんな人間がいるさ」
 声が大きくなる片桐を、人生経験の多い高峰は静かになだめた。指揮幕僚課程を修了したエリート幹部の中にも、人間的にそのステータスに相応しくない者は存在する。所詮、筆記テストや論文で人物を総合的に評価することはできないからだ。そのような者は、大抵は部下からの人望を得られず、人格的に優れた同期の後塵を拝することが多い。
 しかし、ごくたまに、そのような不適格者が、ライバルの不運な失脚などで、棚からボタモチ式に重職ポストにありつくケースはある。実力主義を謳っていても年功序列の風潮を色濃く残す軍隊や自衛隊において、運だけで高級幹部にのし上がってしまった人間を後から排除することは、極めて困難だった。

「……やっぱり、噂通りの人でしたね」
 小坂はすっかり真顔になって、ぼそりと呟いた。
「そいつ、海自にまで悪評が知れてるんすか。運だけで将官になったアホ、とか言われてんでしょう?」
 無能な3等空佐の所業を発端とする一連の騒動のあおりで直轄チームに放り込まれた片桐にとっては、顔も知らないその空将補が、つくづく不愉快な存在に感じられるようだった。やや品位を欠く発言をした若い1等空尉を諫めたのは、当事者の一人である日垣だった。
「片桐、制服を着ている時は、そういう口をきくもんじゃない。上位の人間をあからさまに軽んじるような言動は、自分の信用を無くすだけだ」