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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「これ、僕のオススメです。お口に合わなければ、別のものを作り直してきますから、取りあえず、どうぞ」
 テーブルの上に置いたグラスを彼女のほうに静かにずらした征は、藍色の目をそっと細めた。穏やかながら有無を言わせぬ口調が、美紗から言葉を奪う。
「ブルーラグーンです。ウォッカをブルーキュラソーとレモンジュースで割っています」
 美紗は、グラスの中の鮮やかな青に見入った。家族のいるあの人の残像が、その青い色に吸い込まれるように、薄くなっていく。
「きれいな、色ですね……」
 美紗の言葉に、征は静かな笑みを浮かべ、そして急に、恥ずかしそうに頭をかいた。表情を崩したせいか、包み込むような笑顔が、ゆるりと、愛嬌のある初々しい表情に変わる。
「本当は、水色に近い青になるはずだったんですけど、急いで作ったら、ブルーキュラソーを入れ過ぎちゃって……」
 確かに、サンゴ礁に囲まれた海のような色になるべきそのカクテルは、かなり青みが強く、紺色に近いように見えた。熱帯魚が泳ぐ浅い海というより、やや深い海の中を連想させる。
 美紗はグラスを手に取り、透明な青い液体にそっと口をつけた。ベースのウォッカに優しく包まれたレモンの香りが、顔の周りにじわりと広がっていく。
「あ……、思ってたより、甘いですね」
「ブルーキュラソーが多すぎたから、特に甘くなっちゃったかもしれません」
 軽く頭を下げる征の顔は、ますます子供っぽくなった。
「青い色は、どうやって出しているんですか? その、ブルー……」
「ブルーキュラソーという、オレンジのお酒を使ってるんです」
「オレンジ? それがどうして青いの?」 
 美紗が問うと、征はますます嬉しそうな顔をした。
「青は、実は着色料なんですよ。ホワイトキュラソーっていう無色のオレンジリキュールがあって、それに青い色をつけたのが、ブルーキュラソー。自然の色ではないんですけど、僕、青い色のカクテル作るのが好きで。こういう色を見ていると、嫌な事があってもすうっと忘れられそうな感じがするでしょう?」