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未来は嘘をつく

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聞きたいことは話さずに



それから、僕は、たまちゃんが剥いてくれていた梨を勧めながら角川さんの近況を聞いていた。
「角川さんてどの辺に住んでるの」
通っていた大学は、卒業の時に興味があったから当然知っていたけれど、上京してどこに住んでるのかはさすがに知らなかったことだった。
「東武練馬。ここは近いんだよね。30分ちょっとかな。今日は東上線の大山駅からバスに乗ってきた。ここって駅からけっこう遠いね」
最寄駅からは離れた所の病院だったから、もう少しかかかちゃったんじゃないかと思っていた。
「そっかぁー 東武練馬ね。大学も近いんじゃない?」
「ものすごく近くって事ではないんだけどね」
勧めた梨を手に取りながら、笑顔で答えてもらっていた。
「森山君はどこに住んでるの?」
「小田急線の豪徳寺ってわかる?世田谷ね」
僕は世田谷の豪徳寺駅からゆっくり歩いたら20分もかかっちゃう静かな住宅街のアパートに住んでいた。駅からは遠くで少し不便だったけど、それも東京での初めて一人暮らしには不思議と心地よかった。
「へぇー あんまりそっちのほうは言った事ないなぁー。そこって下北沢の先でしょ?そこまでは行ったことあるけど」
「そう。下北沢から3つ目の駅で降りて、歩いたら20分かかちゃうけど、そこから世田谷線っていうかわいい路面電車みたいなのに一駅乗ったら、すぐ近くなんだけどね。でも、お金ないからほとんど歩いちゃうけど・・。商店街がずっとあって、それが終わちゃって普通の家ばっかりになったところのアパート」
朝と夕方の決まった時間に駅名にもなっている豪徳寺のお寺の鐘が毎日響く、住宅街の中にある2階建てのアパートに住んでいた。
僕は、そこで、週末には駅の近くのカフェでアルバイトをして学生生活をしていた。ギリギリの生活ではなかったけれど、そのおかげで洋服もなんとか買うこともできたし、たまにはおいしいものをおなか一杯食べることもできていた。
「ふぅーん。世田谷なんていいところに住んでるね」
「そっかなぁー」
彼女の想像はきっと少し現実の住環境とは違っているような気がしていた。
「学校はおもしろい?」
他の大学ってどうなんだろうって聞いていた。
「うーん、それなりに楽しいよ。そっちも楽しそうみたいじゃない?年上の彼女もいるし。びっくりしちゃった。」
たまちゃんのことを言われていた。
「そっちだって彼氏はいるんでしょ?昔っから人気あったから角川さんって」
僕が知っている角川さんは、中学生の時からずっと人気のある子だった。
「人気なんかないわよぉー やっと大学に入って今の彼ができたぐらいだもん」
少し照れて、恥ずかしいそうだった。
「うそぉー 高校生の時にデートで喫茶店でお茶してるのみたけど、誰だっけかなぁー。誰かと付き合ってたでしょ。3年生の時」
ごまかして聞いたけど、誰とデートしてたかなんて本当は知っていた。
「あれはさぁー、言われて、いいかなぁーって思ってデートみたいなことはしたんだけど、すぐに、別れちゃったから、付き合ってたわけじゃないし・・・デート自体にに少し憧れてて、それだけよ」
「へぇー そうは見えなかったけどなぁー。仲良さそうに見えたけどなぁー」
「あれぇー、焼きもちでもやいちゃってた?しっかり彼女いたくせに森山君。綺麗な彼女だったじゃない」
笑顔と笑い声で言われていた。
高校3年生の秋の終わりには、ちょっとしたことでぎくしゃくして別れてしまった子のことを言われていた。
1年の付き合いだったけれど、大好きだった彼女のことだった。
「へぇー それ知ってるんだ?本当に?」
驚いていた。付き合ってるのを知られるのが好きじゃなくて、交際がばれないようにけっこう気を使っていたから、そのことはごく身近な人間しか知らないはずだった。
「知ってる人って少なかったんじゃない?隠れて付き合ってたでしょ。でもそれって、私は知ってたから」
僕にとっては、結構驚きの事だった。
「本当に?角川さんは知ってたんだ?」
「もちろん」
秘密を知っててなんだか自慢気の笑顔で答えられていた。
「ふぅーん」
「だって、誰かが私に、すぐに教えにきたもん。森山君があの子と付き合い始めたって・・」
「誰だ、それって」
「誰だったかなぁー 二人に同時ぐらいに言われたよ。それも授業の休憩時間にニュースって感じで」
「それって俺だけ知らないで、結構みんなには、ばれていたってこと?」
「そうじゃないと思う。知ってる人は少なかったはず。もちろん私は聞いてもほかの人には話さなかったよ。感謝しなさいね。偉いでしょ?」
「そっかぁ うん ありがとう」
「うん」
彼女は、今頃のお礼でも、にっこり満足ですって笑顔でうなずいていた。

高校時代、付き合っていた彼女のことはもちろん大好きで、ほかの女の子の事なんて考えずにいたけど、それでも、小さく小さく間違いなく僕の心の奥にずっといたのはいつも目の前の角川さんだった。
昔のことだったけれど、1番知られたくなかった子に交際を知られていたことに今さらながらショックだった。
だって、彼女はもちろん知らないだろうけれど、当時自分のことは棚に上げて、デートでお茶をしている彼女を見て、勝手に焼きもちだって本当は焼いていたんだから。
でも、『当時、デートをしてる君に焼きもち焼いてた』なんて笑って言えるほど、今の僕はそこまで大人ではなかった。

作品名:未来は嘘をつく 作家名:藤花 桜