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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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vs.最終回の通告員

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その日は暇だった。
暇だったので、もう飽きているギターを弾いていると。

ピンポーン。

インターホンが鳴った。珍しい。

「ああ、どうも私、最終回通行人でございます」

玄関にはニコニコとほほ笑んだスーツ姿の男が立っていた。

「こちら、あなたが現在行っている行為のリストです。
 じき最終回になりますのでご確認ください」

「最終回?」


・意味のないネットサーフィン [最終回]
・トイレで新聞を読むこと   [最終回]
・ほとんど弾いてないギター  [最終回]


どれも俺の身に覚えのあるリストだった。

「これ……なんですか?」

「あなたの実生活になんのメリットもないことと、
 社会になんのメリットもない行為です。
 時間と労力と電気と時間の無駄なので、最終回を通達に来ました」

「時間2回言いましたよね……」

「ああ、お気になさらず。それでは、最後の1回をお楽しみください」

まあ、そうかもしれない。
通達員に言われたからというのもあるが、
たしかに俺の生活においてかなり時間の無駄になっているものだ。

それに、今更辞めても全然気にしない。

とくに思い入れもなくリストに載っていた行為の
最後の1回を終えると、ギターは売りに出し、新聞は購読を辞めた。

ちょうどいいタイミングだったのかもしれない。

 ・
 ・
 ・

「あと30分もあるのか」

最終回を終えた翌日、朝にちょっと時間ができた。
出かけるまでは30分も余裕がある。
少しニュースでも見ようか。

「ははぁ、今はこんなものが流行っているんだな。
 むむ、世界の裏側ではこんなことが……」

新聞タイムを卒業したことで生まれた30分。
それにより、自分でも気づかないニュースも知ることができた。

「俺は今まで同じようなことをずっとやっていて
 いつしか無駄さも考えようとしてなかったなぁ」

ネットサーフィンをしなくなったことで仕事効率もアップ。
ギターに手を付けなくなったことで、外にも出歩くようになった。

「ああ、俺なんか今すっごく充実している!!」

数日後、また最終回通告員が来るまではそう思えていた。


「どうも、最終回通告員です。
 このたび、最終回の習慣をいくつかお伝えしに来ました」

「ええ、なんですか? 自分では気付けないムダもありますしね」

俺は好意的に通行印を迎え入れて、リストを受け取った。


小説の執筆   [最終回]


「な、なんだよこれ!?」

「なにって、あなたの私生活においてムダなことですよ。
 先日と同様に最終回にしてください」

「できるわけないだろ! もう5年も続けているんだ!
 もうすぐ、新作も書きあがるんだ!」

通行印は、はぁとため息をついた。

「あなたがどんな思い入れがあろうと、
 客観的に見て最終回研究所が"ムダ"だと判断したんです」

「そんな……」

「あなたもわかってると思いますが、
 この先どう努力してもあなたが一流作家になれることはありません。
 新人賞も取れることはありません。
 あなたが"小説家"という看板になることはないんですよ。無駄です」

「でも……」

「では、これで失礼します」

通告員が帰った後も、俺の心にある反抗心はくすぶったままだった。
まるで今までの自分の小説すべてが否定されたみたいで。

「ふん、なにが最終回だ。あんなもの従わなければいいんだ」

最終回である最後の1回を行ってから、
俺はなおも小説の執筆をつづけていた。


ピンポーーン。


「どうも、最終回通告員です。
 本部より連絡がありました、最終回が過ぎてもなおやっているとか」

「俺の人生なんだ、俺がなにをしようと勝手だろ!」

「いいえ、勝手ではありません。
 人間は社会的な生き物です。個々人の行動は必ず誰かに影響します。
 あなたの無駄が周りにとって影響を与えるんですよ」

「あんたが何を言ってもやめる気はないからな!」

「……そうですか、ではしょうがないですね」

通告員はすごすごと帰っていった。
最初の攻撃的な声色はなんだったのか。


翌日のことだった。


[ご登録されていたアカウントは削除されました]


「はあああああああ!?」

いつも小説を投稿しているSNSサイトでアカウントが消されていた。
何か悪質な行為をしていたわけでもなく、ただ消された。

その日もやってきた通告員に俺はつかみかかった。

「俺のアカウント消したのあんただろ!
 どうしてくれるんだ! 大事なデータもあったのに!」

「最終回はとうに過ぎています。
 こちらで新しいスタートを切りやすいように背中を押したんですよ」

通告員を蹴りだすと、俺は自分のPCに小説を作っていった。
SNSのデータが消されたってなんだ。
また新しいものを作り出せばいい。今度はバックアップも取って。


翌日、書きかけの小説の続きを描こうとパソコンを立ち上げた。

「ない! ないないない!! なんで!?
 ファイルが……フォルダもなくなっている!!」

今日もやってきた通告員はしたり顔だった。

「今さらどうあがいても無駄ですよ。
 すでに最終回は来ているんです。
 早くあきらめて仕事の身になることをしてください」

「あんたは俺の仕事知ってるのか?」

「知りませんし興味もありません。無駄です」

通告員が帰ると、原稿用紙を引っ張り出す。

「データが消されたってなんぼのもんじゃい!
 だったら、紙に書いてやる!! 消されないようにボールペンで!!」


翌日、原稿は消し炭にされていた。


「ちくしょーー!! だったら、ほかの人間に書いてもらえばいい!!」

俺は自分の書くつもりだった小説の内容を友達に話した。
そして、それを執筆してほしいとのことも伝える。


翌日、友達は消し炭にされていた。


「ひどすぎだろ!! ここまでするか!?」

やってきた通告員はさすがに疲れていた。

「あのですね、ほんと……なにが目的ですか。
 あなた、いつまでこんな無駄な抵抗を……続けるんですか……」

「まだまだ続けるさ。あれが届くまではずっと」

「あれ? 切り札でもあるっていうんですか。
 無駄ですよ、最新鋭の記録装置だろうが
 石板に文字を書いて宇宙に飛ばしても回収して消します。無駄です」

通告員は帰っていった。
きっとまた明日も来るだろう。

「形に残させないんなら、頭の中に刻んでやる!
 書けなくても俺の記憶に最高の作品を書いてやる!!」

すると、俺の下にある通知が届いた。

 ・
 ・
 ・

翌日、最終回通告員がまたやってきた。

「いい加減にムダな抵抗はやめてください。
 頭の中で小説を書いても無駄ですよ。
 記憶削除装置がこっちにはあるんです、仕事でもしてください」

「最初に言っただろ、俺はなんと言われてもやめないって。
 これから先に、あんたからどんな妨害を受けてもあきらめない」

「ふふん、あがいていればいいですよ。
 こっちにはいくらでも諦めさせる手段があるんです。
 何度あがいたところで、何度でも削除してやります」

「何度でもか?」
「何度でもです」

「毎回通告に来るのか?」