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月とコンビニ
月とコンビニ
novelistID. 53800
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物書き

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彼女  じぃ。
男   ん?
彼女  じぃ。
男   何してるの?
彼女  まねっこ!
男   だれの?
彼女  あなたの!
男   ああ。
彼女  じぃ。
男   ほんとうだ。
彼女  でしょう?
男   俺は、そうだな…。
彼女  なぁに?
男   …。
彼女  ねえ、なあに?
男   …、君を見ていたい。
彼女  んー?
男   君のことを、もっと知りたい。
彼女  んー? んー?
男   その口は? その鼻は? その瞳は? 髪は? 声は? 言葉は? 想いは? 感情は? 何を見て何を想うの? 何を聴いて何を謳うの? 何を感じて何を見つめるの? 見せて。見せてよ。
彼女  んー? んー? んー? すきなの?
男   うん。
彼女  へっへー。わかった。
男   すき。
女   わたしもすき。
男   どこが?
女   あいにきてくれるとこ。
男   そうか。
女   そう。
男   そうだろうね。
女   そうだよ。
男   そうか。
彼女  見ててね。
男   うん。
◇彼女は、るんるんと部屋の中を散策する。
男   …、君が俺の理想。
◇男は彼女をしばし眺めると、机に向かい筆を進める。
◇彼女は段々と男が気になってきて、男の背中にとびつき、後ろから机の上を覗く。
◇男は無反応で筆を進める。あたたかな空間。
◇ノックがあり、妹イリ。男、一瞬びくっとする。
◇彼女は背中から離れる。
妹   兄さん、お夜食。
男   ああ、ありがとう。
妹   いま食べる?
男   落ち着いてからにしようかな。なに?
妹   おにぎりの塩と梅とおかか。
男   おいしそう。
妹   おいしくないことがあった?
男   …、ない。
妹   どーだ。
男   まいったー。
妹   まいらせたー。
男   ゆず。
妹   ん?
男   いつもありがとう。
妹   なんじゃらほい?
男   いや。
妹   もう、かわいい兄めっ。
男   ふふっ。
妹   締切には間に合いそ?
男   …、まあ、缶詰にならなくてすみそ。
妹   そっか。ファイトじゃ、兄さん。
男   おう。
◇妹ハケ。
◇彼女は、また男の背中に戻る。男は筆を進める。
◇男、ゆっくりと目を閉じる。眠る。
◇彼女は男を操り人形のようにしてあそぶ。
◇彼女は、男と共にうずくまり眠る。
◇妹イリ。
妹   兄さーん、ねえ兄さーん。
男   んー。
妹   いつまで寝てるの?
男   ん、ゆず?
妹   もう十一時なんだけど?
男   ん? ああ、…いいだろ、昨日は遅くまで仕事してたんだから。
妹   んー、まあ頑張ってたかな。
男   ね、おやすみ。
妹   いやいやいやいや。
男   …、お前、今日仕事は?
妹   休みっ。
男   そうか。
妹   それで、梅子さんのところには送ったの?
◇男はぐーをする。
妹   そっか、おつかれ。ま、それなら寝ててもいいかな。
男   お前なー。
妹   ふふっ。
男   くっくっくっ。
◇男と妹、顔を近づけて、二言三言ひそひそ話をする。
男   ばーか。
妹   ばかじゃないしー。
◇玄関のチャイムが鳴る。
妹   おっ? はいはーい、いまいきまーす。
◇妹ハケ。男は寝る。
妹(声) はーい、いまあけますよーはいあけたー!
女(声) こんにちは。
妹(声) あらこんにちは兄さーん、梅子さーん!
女(声) 失礼します。
男   えっ?
◇男は隣に寝ている彼女を見て、あわてて起こす。
男   起きて。
彼女  にゅ、なに?
男   帰るぞ。
彼女  や。
男   いいから、はやく。
彼女  ふぇあー。
男   ほら、はやく。
彼女  うぇー、なんでー?
男   いいから。
彼女  ぶー。
男   …。
◇彼女は男に抱きつき、耳元で囁く。
彼女  また会いに来てね!
◇男は彼女を引き出しに押し込み、引き出しを閉じる。
◇あわてて引き出しの鍵をかけていると、女が入ってくる。
女   …、先生。
男   …。
女   何をしまったんですか、先生。
男   …、何を? 何も。
◇妹、てー持ってイリ
妹   兄さーん、入るよー。
女   …。
男   …。
妹   …てーを、…。
女   …。
男   …。
妹   …、あの…。
女   すみません、ゆずちゃん。ちょっとお仕事のお話なので、席をはずしてもらえませんか。
妹   え、なに…。
女   お願いします。
妹   …、はい。
◇妹ハケ
女   原稿、拝見させていただきました。
男   はい。
女   素敵です。
男   ありがとうございます。
女   恋をしているのですね。
男   ええ。
女   良いことです。
男   はい。
女   でも、だめです。
男   だめ?
女   これは掲載できません。
男   なぜです?
女   …。
男   なぜです?
女   引き出しに何をしまったのですか?
男   …、何を?
女   …。
男   …。
女   先日、豊見山とみお先生との打ち合わせがありまして…。
男   …。
女   担当させていただくことになったんです。
男   そうなんですか。
女   それにあたって、これまでの作品も大方、拝見させていただきました。
男   はあ。
女   それで。
男   ええ。
女   見ました。
男   なにを?
女   文章。
男   いったい…。
女   文章です。
男   何を言ってるんですか?
女   …。
男   何を言いたいんですか?
女   …。
男   …。
女   盗作です。
男   …。
女   盗作ですよ。
男   …、盗作?
女   ええ。
男   そんなことを?
女   …。
男   いったいだれが?
女   だれが?
男   …。
女   あなたが。
男   …。
◇鍵が落ちる。ちゃりんとなる。
女   …。
男   ああ。
女   恋をしているのでしょう。
男   …。
女   でもそれは、読者の恋。
男   …。
女   他人の彼女を抱いているのと変わりません。
男   …。
女   これは、掲載できません。
◇女は、落ちた鍵を拾い上げる。
男   音が鳴った。輪郭の無い妄想が形ある理想へと変わる音。彼女が笑う声。書きたいものと書くべきものはいつからか分離し、書きたいものも書くべきものも書けなくなった。二歩進んでは二歩下がり、また、二歩進んでは二歩下がる。そのうち、一歩も進めなくなり、心と頭は分離して、俺は彼女を見つめて……、また、見つめた。
◇女は引き出しの鍵をあけ、引き出しを開ける。目を細め、引き出しの中を見つめる。
女   一歩も進めなくなったのなら、どうしてまわりに言ってくれなかったのです? どうしてゆずちゃんに…、どうして…。どんなに人様の手を煩わせたとしても、どんなに酷く醜い駄作が出来上がったとしても、それは十二分に意味のあるものであるのに…。不格好でも、不格好でも意味のあることを…。
男   …、意味? 
女   意味です。
男   何だそれ。考えたこともなかった。
女   そうですか。
男   ええ。
女   考えて。
◇女は引き出しをそっと閉じる。
女   私は…。
作品名:物書き 作家名:月とコンビニ