物書き
妹 どうぞ、兄さん。
男 …、ありがとう。
妹 どういたしまして。
女 んー、おいしー。ゆずちゃん、てーを淹れるの上手なんですね!
妹 ほんとーですか? よかったー。
男 んー、ほんとだ。うまい。
妹 うまくないことがあった?
男 ない。
妹 どーだ。
男 まいったー。
妹 まいらせたー。
女 のんのん!
妹 ところで兄さん。
男 ん?
妹 兄さんいま、お付き合いしてるメスはいないのよね?
女 ごぶふっ!
男 ああ。
女 げほげほげほげほ!
妹 あらあらあらあら、まあまあまあまあ。
◇ポケットよりハンカチをスタイリッシュに取り出し、女の洋服や机を拭く。
女 あ、ああ、す、すみません!
妹 あら、あららららん?
女 え、なに?
妹 よーーーーーーーーーーーーく見ると梅子さん、とってもすべすべなお肌をしてらっしゃいません?
女 え? え?
妹 足もすらーっと長くてモデルさんかと思ったわ! むちぷりじゃないけど、ほど良いスタイル! 鼻は低くてもぱっちり二重! ショートな黒髪がお似合いね! 性格ならば文句なし! むっつりすけべぃっぽいところもなんだかんだ言って、べりーぐーね! こんな女性をほっとく男がいるかしら! いない! ねえ、兄さん?
女 え、あ、お、もがもが。
◇女、男を見つめる。
◇男、女を見つめ返す。
◇恋に落ちそうな雰囲気。
妹 落ちろー! 落ちろー! 落ちろーーー!
◇男のポッケから鍵が落ちる。ちゃりんと音がなる。
妹 はい落ちたーなにか落ちたーなになになにそれー!
男 あ、これは…。
◇男は急いで鍵を拾い、隠すようにポッケに入れる。
妹 なにそれ、鍵? なんの鍵? なんで隠すの?
男 あの、それは…。
女 ん?
男 いえ。
妹 ねえ、兄さんなに? なんの鍵?
男 これは…。
妹 これは?
男 …、そう、友だち、に、会うための、鍵、かな?
妹 とーもーだーちー? 兄さんに、友だちなんていたの?
女 あの、なぜお友だちの鍵を?
妹 だいたい、おとこ? おんな?
男 お、いや、うん、…おんな、かな。
女 え?
妹 兄さん! え? 女! でも、付き合ってるメスはご不在だって…。あー、友だちって、あー、もー、もう少しで、もう少しなのね! もう、厳密に友だちとメスの区別をつけなくたって! 鍵を渡されてるんだからもお! もうほぼほぼ義姉さんじゃない! やることやってー! すみに置けないわー、もう兄さん! このこの!
男 な、や、まあな。
女 えー?
妹 それならそう言ってよね。もう、知らなかったから、こんなのとくっつけようとしてたじゃない。
女 こんなのー?
妹 それより、もう、早く紹介してよねー。それよかまず告白が先か。落とすんじゃ、必ず落とすんじゃぞぃ! ぼでいじゃ、ぼでいを攻めろ! 文字通りな!
男 お、おう!
女 だ、だめです! ぼでいはだめです! 攻めるなら、私のぼでいにしてくださいっ! ねっ?
男 え、あ、梅子さん?
妹 なにいっとるんじゃい小娘いっ!
男 な、ゆずちゃんの方が小娘じゃないですかっ!
妹 ああ、みそじか。
女 かっちーん。
男 おいやめろゆず。
女 せんせっ。(はーと)
男 真実を突くのはよせ!
女 せんせっ。(なく)
妹 だって兄さん、あんな貧相なむねっころのみそじがおりますか?
男 おっぱいはおっぱいだろうが!
女 そんなっ、腐っても鯛みたいな言い方しなくてもいいじゃないですか!
妹 兄さんは、あんなむねっころでも触りたいと思うの!?
男 さわりたいよっ!
女 いいよっ!
妹 ようし、胸を張れいっ!
◇女は胸を張る。
妹 爆笑っ! そんな張れぬ胸でよくぞ生きてこれたなっ!
女 なにっ!
妹 鍛えるべきは大胸筋ぞっ!
女 そうだったのかっ!
妹 そうだ!
男 そうだったのかっ!
妹 胸を張って生きられる胸を持ちなさい。いいですか、大胸筋です。
女 はいっ!
妹 大胸筋を鍛えなさい。そして、兄をあきらめなさい。
女 わかりました! そしてわかりません!
妹 いいでしょう。すけすけぽんのあまいのを食べましょう。
女 そうしましょう。
男 へんななまえー。
妹 まるで梅子さんの下着みたい。
女 しねっ。
男 え?
女 いただきます。
妹 いただきます。
◇女と妹、すけすけぽんのあまいのを喰う。(以下、食事中の声。)
女 ああ、おいしい、ああ、おいしい!
妹 ぎいいいいいいいいやああああああああああ!
女 ああ、おいしい、ああ、おいしい!
妹 ぎいいいいいいいいやああああああああああ!
◇くるっぽーんくるっぽーんと時計が鳴く。
女 あっ、時間ですね。すけすけぽんのあまいのも食べ終わりましたし、この後、豊見山とみお先生との顔合わせもありますので、すみませんがこの辺で失礼させていただきます。
男 え?
妹 え、もう行くの?
女 はい。
妹 いやっ。
女 ゆずちゃんっ!
妹 梅子さんっ!
女・妹 ひしっ!
◇二人、熱い抱擁。そのまま、以下進行。
女 先生、原稿ですが、締切厳守でお願いいたしますね。HOTEL-SUKESUKEPONに缶詰は先生も嫌でしょう。
男 あ、はい、いやです。
女 今日見た限りだと、光は見えてきたみたいなので大丈夫でしょう! 頑張りましょうね。
男 …、はい。
女 それではゆずちゃんも、てーごちそうさまでした。
◇抱擁をとき、見つめ合う。
妹 また来てね、梅子さん。
女 もちろんです、お兄様の駄文に商品価値がある限りは、きっと…。
妹 うん…、うれしいっ!
男 ひどいっ!
女 それでは失礼します。
妹 あ、お送しますね。
女 え、すみません。
妹 いえいえ! それにしても、なんですけすけなんですか? どきどきする!
女 淑女の嗜みですよ。
妹 そうなのか、買おう!
◇妹と女ハケ。
女(声) きゃっきゃうふふ。
妹(声) きゃっきゃうふふ。
◇妹と女の声が遠くなる。しばらく見送った後、男は机に向かう。
◇少し筆を進めるが、消す。頭を抱える。
◇机から離れ寝そべると、ポッケから鍵が落ちる。男は鍵をじっと見つめる。
◇鍵を拾い上げて、机の引き出しの鍵穴にさす。引き出しを開ける。
◇引き出しから、彼女が出てくる。彼女イリ。
男 …。
彼女 …。
男 やあ。
彼女 ん? あいにきてくれた、やっとあいにきてくれた、まってった!
男 ほんとう?
彼女 ほんとうほんとう、うそつかないもん。
男 そうだろうね。
彼女 どうしたいの、なにしたいの、なにされたいの?
男 なにができるの?
彼女 んー、ぼうけん、れんあい、なんでもござれ? でもこんかいはー、なんだろ?たのしみだね!
男 うん、たのしみだ。