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月とコンビニ
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物書き

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『物書き』

○登場人物
・男
・妹
・女
・彼女

男   俺は昨日夢を見た。女の子の夢だ。それはとても深い眠りに入った一瞬のことだったかもしれない。だが覚えているのは、その時の、ただ一つの台詞だった。「もっと会いに来てね」彼女はそう言って、俺の視界は自室の天井へと移された。そして、掌には見覚えのない鍵が握られていた。
◇男は鍵を大切そうにポケットの中に入れ、その場にうずくまり眠る。
◇妹イリ。
妹   兄さーん、ねえ兄さーん。
男   んー。
妹   いつまで寝てるの?
男   ん、ゆず?
妹   もう十一時なんだけど?
男   ん? ああ、…いいだろ、昨日は遅くまで仕事してたんだから。
妹   仕事とか言って、本読んでただけじゃん?
男   …。
妹   当たり外れのある仕事なんだから、しっかりしてよね。
男   …、お前、今日仕事は?
妹   休みっ。
男   そうか。
妹   早く朝ご飯、片付けちゃって。
男   なに?
妹   目玉焼きとお味噌汁とおひたし。
男   …、おいしそう。
妹   おいしくないことがあった?
男   …、ない。
妹   どーだ。
男   まいったー。
妹   まいらせたー。
男   おきるぞー。
妹   おきれー。
男   おきれーん。…いかん、夜ふかしがつらい。ぐばはっ。(吐血)
妹   …兄さん、いまいくつ?
男   みそじはん。
妹   くそだな。
男   ん?
妹   何も言ってないよーん。
男   なーんだ、そらみみ、そらみみ。
妹   うふふっ。
男   えへへっ。
妹   ところで兄さん。
男   なに?
妹   兄さんはいま、将来を誓い合ってる人とかいないのかしらん?
男   …。
妹   …。
男   …。
妹   くそだな。
男   …。
妹   くそで童貞か、くそだな。
男   だって…。
妹   なさけの無い奴めっ!
男   あー、うるさいうるさーい。
妹   女っ毛なんて、ほんのちょっぴりも無いのだから。
男   そんなん、お前はどうなんだよ。
妹   あたしはほら、いいんだし。大体、兄さんを置いてお嫁に行っちゃったら、天国の父さんと母さんに顔向けができないわ。
男   まったく兄離れのできん奴だっ!
妹   そんなことないもんっ!
男   かわいい奴めっ。
妹   ぷんぷんっ。
男   かわいい奴めっ!
◇玄関のチャイムが鳴る。
妹   はいはーい、いまいきまーす。
◇妹ハケ
男   妹に罵られるのってさいこー。
妹(声) はーい、いまあけますよーはいあけたー!
女(声) こんにちは。
妹(声) あららん、こんにちは。兄さーん、梅子さーん! ささ、あがってあがってー。(某U字工事の『ごめんねごめんねー』風)
女(声) あ、すみません。
男   えっ?
◇男は時計を見て、あわてて部屋の片づけをしたり、髪をとかしたりする。
妹(声) 兄さーん、梅子さーん、うーめーこーさーんー! ふひひ、見てやって下せえ、兄の堕落したその姿…!
◇男は、片付けやヘアセットを放り出し、机に向かう。
◇妹イリ。続けて女イリ。
妹   あらん?
女   失礼します。
男   あ、こんにちは。
女   こんにちは、はかどってますか?
男   ええ。
妹   外面のいい奴っ!
女   ん?
男   ううん、ううん。
女   あ、これ、差し入れです。
妹   あ! ありがとうございますー、うわー、あまいのだー。
女   HOTEL-SUKESUKEPON(ホテル‐すけすけぽん)のあまいのです。
妹   おいしそー。
女   いま、人気なんです。SUKESUKEPON。おいしいですよ。
男   すみません、いいのに。
女   先生が頑張っているのに、手ぶらでは。
妹   へっ。(頑張ってる? コイツがぁ? の顔)
女   ん?
男   ううん、ううん。
女   先日の分から進んでいるところまでで、ちょっと読ませていただいてもかまいませんか?
男   ええ。ええっと…。
◇男、がさごそしたりして紙を集める。
妹   片付けんからや。
男   うるさいなぁ。
妹   片付けんからやでぇー。
男   うるさいなぁもう。
女   ふふっ、仲の良い兄妹なんですね。
男・妹 そうなんですよー。もー。ねー?
女   くっそうらやまし。(地声)
妹   ん?
女   いいえ。
妹   ははーん。
女   もがもが。
男   すみません、どうぞ。
女   あっ、はい、拝見いたします。
妹   せっかくのあまいのを頂いたから、アタクシ、お茶淹れちきますね。
男   おう。
女   あ、お構いなく。
妹   いえいえ、ごゆっくりしなしゃんせやでぇ。なあ?
男   おう。
女   もがもが。
男   ん?
妹   ううん。
◇妹ハケ。
男   へんなやつ。
女   …。
男   …すみません、騒がしい妹で。
女   いえ、本当にうらやましい。
男   そうですかねぇ?
女   ええ、そうですよ。ああ先生、気にしないで筆を進められて下さい。私もこれ、ばばっと読んじゃいますんで。
男   はいさ。
◇男は机に向かう、女は紙を読む。
◇しばし無言。ペンもしくはキーボードの音、紙をめくる音が聞こえる。あたたかな空間。
女   …、先生。(以降、読みながら話す。)
男   はい。
女   素敵です。
男   いや、ありがとうございます。
女   先日から悩まれていた女の子のカタチ、しっかり掴まれたようですね。
男   …、ええ。
女   人物像もしっかり立っていますし、描写も分かりやすく綺麗です。何より、先生の愛を感じますね。この子のこと、好きでしょう?
男   え、ええ。恥ずかしながら…。
女   いえ、恥ずかしいことではないと思います。そういった作家さんは多いですし、何よりその方が、魅力的な登場人物になりやすいものです。
男   はあ、そういうものですか。
女   そういうものです。まあ、描写が行き過ぎたり、物語の軸がぶれたりすることもありますが、先生はきちんとバランスが取れていますし、それに小言を言うのはこちらのお仕事ですからね。
男   …。
女   大丈夫でしょう。大体は!(紙から、顔をあげる。)
男   よかった。
女   では、さっそく続きを書きあげてもらわないと。
男   うっ。
女   締切がありますからね!
男   ああん、書きますよ、書きますとも!
女   少し、気になったところだけ入れときますね。
男   はーい。
◇男は机に向かう、女は紙に赤ペンで何かを書き込む。
◇ノックがあり、妹イリ。
妹   失礼いたしんす、てーでございます。
女   ああ、ありがとうございます。
妹   あと、これ、あまいのです。
女   ありがとうございます。
妹   いえいえ、梅子さんのあまいのですので。
女   すけすけぽんですね。
妹   すけすけぽんですな。
妹・女 うっへっへっへっへ。
男   …、おれんは?
妹   ほれい。
◇妹が男に向かってあまいのをなげる。
男   雑っ! 俺雑っ!
妹   …、しかたのにゃー奴じゃ。
◇妹、丁寧にてーを淹れる。
作品名:物書き 作家名:月とコンビニ