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海野ごはん
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novelistID. 29750
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電車の彼女を車で追いかけて

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電車の彼女を車で追いかけて


まっすぐ伸びたレールが途中で揺らいでいた。
夏のかげろうはリアルの世界を幽玄に誘う。もしも、あの向こうに行けば帰れるのであろうか?
揺らめく世界からいきなり先頭車輌が顔を出した。
定刻にこの無人の駅に到着する電鉄の白い車体は、太陽に照らされ眩しく輝いている。

「来たわ」
彼女は両手に持ったカメラで狙い撃ちするように長いレンズを片手で支え、ホームから被写体の車輛に向かいシャッターを切り出した。
 僕と彼女以外は誰もいない。あたりは緑の絨毯を敷き詰めたような稲田が広がっている。のどかな中で忙しく一眼レフのシャッター音が響いた。

車輛は猫でデコレーションされていた。
私鉄であるこの電鉄は日本一心豊かなローカル線になりたいということで、様々なアイデアで経営に勤しんでいる。「猫電車」は特に猫の駅長の話題もあり、この車輌を撮影しに来る鉄道カメラマンが多い。
テレビでも紹介されたので全国から、列車好きのカメラマンが集まってきている場所だ。
僕たちは混雑の終着駅を避け、その一つ前の無人ホームから撮影することにしたのだった。

滑りこむように停車する車輌の中には観光客がたくさん乗車していた。
開いたドアから「甘露寺」と社内アナウンスが聞こえる。
「乗るよっ!」僕は夢中になっている彼女に声をかけた。
一駅だけ乗って、折り返しまたここに戻ってくる計画をしたのだ。
たった3分だけの乗車。
彼女は車内に入ってくるなり「かわいい」と言って、またカメラを構えだした。
同じような目的で乗車してるのであろう、他にもカメラを携えた乗客が何人かいた。
猫の壁紙に座席も猫の模様だ。
いたる所に人気者の猫の駅長のイラストがあしらってある。
「なんだか楽しいわね」
「可愛いいしね。よく考えてあるね」
僕は僕のカメラで熱心に撮影する彼女を写した。
鉄道カメラマンじゃないが、休日カメラマンの彼女はなんでもレンズを通して見る癖が付いている。
その姿が僕は可愛くて撮影するのだ。
僕の被写体はいつでも彼女。周りの風景は彼女の引き立て役でしかない。
笑顔の彼女、すました彼女、変顔の彼女、彼女自身が鏡では見られない普段着の顔を写すのが僕の役目だ。