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井上 正治
井上 正治
novelistID. 45192
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仮想の壁中

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 黒パス乗車の人物がわざわざ降車途中に意思表示を行っていったというのは、一体どういうことなのでしょうか。黒パス乗車をおこなうということは公務中であり、しかもこの公務は、普通は非公然に行わなければならないとされる性質のものなのではないでしょうか。どこに行くか、何をするかわからない人物を常時監視する必要があるから、黒パス乗車なのではないでしょうか。それなのに、その監視対象に対して公然と意思表示を行ったというのは、常時監視の必要がなくなったため、この公務を終了することを組織が決定した結果といえるのではないでしょうか。組織がなぜ非公然の監視を行ったのか、また、なぜそれを公然と終了したのかについて考えてみたいと思うのではないでしょうか。
 長い歴史のなかで、社会秩序を維持し、社会生活を安全なものにする役割を担ってきたのは統治権力ではなかったでしょうか。そして、長い間社会の中で様々な取り締まりを行うというのが社会秩序を維持する方法であり、社会の中で必要なところに様々な保護を与えるというのが社会生活を安全なものにする方法ではなかったでしょうか。このような社会の統治権力には、社会秩序や社会生活について明文化された命令はあっても、明文化された基準というものはなかった、というよりも権力者にとって明文化された基準というものは、自分の権力に制限を加える一面があるためむしろあってはならないものなのではなかったでしょうか。全権を掌握したうえで具体的に社会を運営するこの統治行為が一般的に行政といわれるものなのではなかったでしょうか。そうした社会の中で統治権力を行使される側の中から、排除されるのを防ぐために、また、自分の財産を守るためにこの統治権力に制限を加えようとして考え出されたのが立法権といわれるものではなかったでしょうか。統治権力に対抗する方法として明文化された法律を議会によって制定し、それを統治権力及び被統治者たる市民に強制するのが立法権の内容ではなかったでしょうか。この統治権を代表するのが王制であり、立法権を代表するのが議会制ではなかったでしょうか。社会の進歩によってさまざまな組織が育った結果、その利害が衝突して不安定になった社会において、その秩序を維持し生活の安全を確保するために、行政権力と立法権力は本来拮抗して社会を平穏なものにするためのものなのではなかったでしょうか。
 この行政権力と立法権力が対立したときに、公平な判断で紛争を解決するために考え出されたのが司法権といわれるものではなかったでしょうか。行政権力に対しては法律に違反していないか判断し、立法権力に対しては基本法に違反していないか判断して秩序を破壊することなく解決するのが司法権の役割ではなかったでしょうか。そして、社会秩序を維持し社会生活の安全を確保するための強制力を行使するのは行政権力の役割と考えられ、その中で法律によって保護されている国民の人権を制限することになる犯罪捜査に関しては、司法権の統制に服するという仕組みになっているのではないでしょうか。しかし、社会秩序を維持するためには犯罪を予防する、即ち、具体的に犯罪行為に至らなくても犯罪の可能性があれば権力を発動するという行政の行動形態が一般的に認識されているのではないでしょうか。黒パス乗車も、犯罪には至らなくても犯罪につながる可能性があると判断した場合に、その組織が非公然に行っている活動方法の一部と考えられているものなのではないでしょうか。
 黒パス乗車の人物が行っていた監視も、『今の社会で十分に実現されているとは言えない、人間を大切にする新たな価値体系に基づいた、持続可能性のある社会に関する夢』を見る人物が犯罪行為に走った場合の対策のため、つまり犯罪予防活動として行っていたものと考えられるのではないでしょうか。このように、犯罪の実行行為がなく、したがって犯罪の構成要件該当性もない対象に対する監視行為はまさに行政活動そのものと言えるではないでしょうか。そして、監視活動をする組織からすれば、もし犯罪の実行行為があれば、即座に司法権力の規制が入ることを念頭において行っている監視行為といえるのではないでしょうか。黒パス乗車の人物が所属する組織は、強力な強制力を行使する行政権力ではあるけれども、常に司法権力の規制を意識しなければならないという性格があるものなのではないでしょうか。このように人権侵害に対して敏感な感覚を持つ黒パス乗車の人物が所属する組織が、犯罪の実行行為の可能性が全くなくなったと判断したのであれば、その組織の性格上監視対象がまったく気づかぬうちに静かに監視活動を終了すればよいのではないかと思うのですが、それをわざわざ意思表示をして終了したということについて想像してみたいと思うのではないでしょうか。
 一般的に、黒パス乗車の人物が所属する組織が行う犯罪予防活動はその方法において無制限と考えられるのではないでしょうか。行政権力の中で、かなり強い強制力を持った組織が社会秩序の維持や、社会生活の安全の確保を目的に行う活動であると思うのですが、どこにいて何をするかわからない犯罪予備軍を対象に事前に基準を定めて活動することが可能とは思えないのではないでしょうか。適宜行政権力の必要に応じて活動すると考えるのが普通ではないでしょうか。例えば相手が暴力的な組織であればわかりやすいと思うのですが、まっとうな企業活動を装っていたり、外交特権を持っていたり、他国の政府や実力組織が関係する秘密活動に対する犯罪予防活動もあるのではないでしょうか。また、対象が特定できれば多様な監視活動を中心に行うと思うのですが、対象が特定できない段階の犯罪予防活動もあるのではないでしょうか。よく言われているように、様々な組織に協力者を作り恒常的に情報収集するとか、協力者でなくとも人を罠にかけて弱み握り、それに付け込んで情報収集するなどもあるのではないでしょうか。また、犯罪予備軍がそれなりの訓練を受け、それなりの道具を持っている場合には犯罪予防活動も一般人の想像を超える特殊なものになることもあるのではないでしょうか。特に周りを海で囲まれ、陸続きに国境を超えることが困難な国での活動には無線通信が重要な連絡手段になるため、犯罪予防活動としての電波の捕捉については、公表されていない高度な技術が使われていることは想像に難くないのではないでしょうか。
作品名:仮想の壁中 作家名:井上 正治