仮想の壁中
黒パス乗車の人物が所属する組織が電波の捕捉に関して高度な技術を持っていることは想像できると思うのですが、この組織が国民の両耳の中に埋め込まれた電波部品を操作している可能性はないのでしょうか。24時間365日の運用を行うためにはそれなりの人員配置と勤務体制を組む必要があると思うのですが、犯罪予防のための監視活動を行う体制もまさにそれと同じものなのではないでしょうか。ただ、犯罪取り締まりのために予防活動まで行う組織が、犯罪そのものである、国民の両耳の中に埋め込まれた電波部品の操作まで行うと考えるのは無理があると思われるのではないでしょうか。黒パス乗車の人物が所属する組織が使う電波は、発信は連絡用くらいで大半は受信用ではないかと考えられることと、行政組織である以上一般試験と面接試験に合格して採用された職員が、職務に関連する法律の研修を受けたうえで公務に従事するはずなので、情報公開制度や内部通報制度が定着している社会でこのような犯罪に手を染めるとは考えにくいと思われるのではないでしょうか。やはり、電波部品を操作している組織は、別の全く未知の組織であると考えられるのではないでしょうか。
仮に急激な体調の変化の人物を甲、黒パス乗車を行う人物が所属する組織を乙、電波部品を操作している組織を丙としてこの3者の関係を整理すると、丙は甲に対し、両耳の中に埋め込まれた電波部品を操作して体調が急激に変化するほど強力な攻撃を行っていたのではないでしょうか。次に乙は甲に対して、犯罪の可能性があるけれどもまだ犯罪には至らない敵とみなして常時監視していたのではないでしょうか。そして、丙に対してはその存在を全く認識していなかったと考えられるのではないでしょうか。最後に甲は、自分に対して常時監視をしていた乙と、同じく強力な攻撃をおこなっていた丙の両者に対して全く認識していなかったということになるのではないでしょうか。この関係の中で乙が甲に対する常時監視を中止したというのはどういうことなのでしょうか。例えば乙が行う常時監視活動の中で、甲に関する周辺情報の収集や、甲の急激な体調の変化の観察から犯罪実行の可能性がないと判断した可能性はあるのでしょうか。もしそうであれば、ひそかに中止する方法をとったのではないでしょうか。そうではなかったということは、やはり別の理由があったと考えられるのではないでしょうか。もしも、甲の急激な体調の変化から、丙が甲の両耳の中に埋め込まれた電波部品を操作して強力な攻撃を行っていることを乙が捕捉したとしたらどうでしょう。即ち、丙が犯罪の加害者で甲はその被害者であることを捕捉したとしたらどうなるのでしょう。
現に犯罪が行われていればそれを阻止するのは国民の義務であり、特に行政権力として犯罪の取り締まりを行うのが本来の業務である乙は、それを阻止すべく強制力を行使することになるのではないでしょうか。もしもそうだとすれば、乙はまだ犯罪に至らない甲を被害者として保護し、加害者である丙に法の裁きを与えるべく組織を挙げて戦うことになるのではないでしょうか。即ち、甲は保護対象であって、乙の敵ではなくなるということになるのではないでしょうか。このように想像すれば、乙が甲に対して行っていた常時監視を中止した理由として納得できるのではないでしょうか。ただし、乙が犯罪を摘発するために強制力を行使する場合は指揮権者の指揮に従うこととされているのではないでしょうか。そして、もしも指揮権者が強制力を行使することに対して中止の命令をしたならば、強制力の行使には至らない場合も考えられるのではないでしょうか。それが犯罪終了後であれば指揮権が発動されたとしても法の裁きをまぬかれるだけですが、犯罪の実行を阻止しようとする段階での指揮権発動であれば、犯罪は依然として実行されているということになるのではないでしょうか。この場合、被害者甲を保護できなかったうえに、容疑者丙に対しても強制力を行使できなかった乙の立場を想像すると、指揮権者と丙の両方に対して不満を抱くことになるのではないでしょうか。乙にとっては、公務上の正義と公務員としての人格を否定されたに等しい指揮権の発動ということになるのではないでしょうか。
いまだに犯罪行為が実行されているとしたならば、社会秩序を維持し社会生活の安全を確保するのが本来の任務である乙が、何らかの行動に訴えるのは当然の成り行きと言えるのではないでしょうか。敵の敵は味方ということわざがあると思うのですが、乙があえて被害者甲に対して常時監視を中止する意思表示を行ったのは、容疑者に強制力を行使できなかったけれども被害者は必ず保護するという公務上の正義の要請を無視できず、なんらかの行動を必要としたためではないでしょうか。また、電波部品を操作している組織丙が、攻撃対象としている被害者甲の両耳の中に埋め込まれた電波部品を通して知ることとなる乙の意思表示は、丙に対する敵対的警告の意味もあったと思われるのではないでしょうか。
それでは次に、黒パス乗車の人物が所属する組織を力業で打ち負かした実力を持つ、電波部品を操作している組織丙が、なぜ公然と姿を現したのか想像してみたいと思うのではないでしょうか。
第9
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