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謝恩会(前編)〜すれ違う手と手〜

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二 牧 晴乃



 牧 晴乃はベースを肩に掛けて三宮に向かう電車に乗っていた。入試が終わり審判を待つやきもきした毎日、その審判は明日下される――。

 晴乃は焦っていた。周囲の者が次々に進路を決める中で自分だけが決まっていない。先生の薦めで予想以上にできが良かったセンター試験で二次試験のランクを一つ上げて照準を合わし、志望が理系であるので元々少ない私立の併願も厳選してその数を減らした。
 しかし滑り止めの入試の時期にあれだけ注意していたのにインフルエンザにかかり、文字通り後がなくなった。誤算だった。明日の結果がダメだったら後期日程の試験もある。しかし自分に近い友人の状況を照らし合わすと晴乃の中で割りきれず気力が遠退き、ここで決めてしまわなければもうダメだろうと負の審判を自分で下していた――。

 そんな晴乃を心配して、バンド仲間のサラ・フアレスが
「ヤキモキしてもしゃあないから、QUASARにおいでよ」
とメールを受けてやっと重い足を動かした。向かう先はライブハウス兼貸スタジオ、高校生活の最後を締めくくる謝恩会は毎年最後の入試が終わった後に行われる。その会で晴乃はステージに立つ予定だ。
 
「MMが一時間先取りしてくれたから、早めにおいでね」
といつものスタジオを段取りしてくれた。心配してくれる仲間の思いを無下にはできない。晴乃は自らの足で踏み出すことを決めた。 

   * * *

 晴乃はため息をついた。電車の扉の窓は吐く息で曇り、六甲の山に雲がかかったように見える。

 審判が下されるのは晴乃だけではなかった。
 晴乃の彼氏、篠原健太も同様に明日の審判を待つ身だ。しかし絶対的な違いは、健太は既に滑り止めであるが合格通知を受けている。彼が受けた国立は地方の大学で、自分が受けたのは家から通えるところ――。いずれにせよ小学校に上がる前から同じ進路をたどってきた二人は違う進路に行くことが決まっている。その事には触れたくないから、入試本番の前後辺りから彼とは会う機会はめっきり減って今日まで至っている。それに、最後に会った時は結局喧嘩になって物別れになった。それは自分がどこかでイライラしてたのが原因なのも痛いほど分かっている。

 晴乃も子供ではないのでいずれはこうなるのは分かっていたが、そう遠くない未知の未来に幾ばくかの不安を拭いきれずにいた。