小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

謝恩会(前編)〜すれ違う手と手〜

INDEX|3ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 


 稽古を終えて悠里は既に本来の役目を終えた制服に着替え、右肩には防具一式を背負い校門に向けて一人とぼとぼ歩いていると門の前で、同じく役目を終えた制服を着て左肩に防具一式を背負った男子生徒が立っている。悠里はその姿を確認すると稽古の疲労を忘れて校門に向けて小走りした。

「ゴメンね、待った?」
 男子生徒に微笑みかけては声をかけ、彼の肩をポンと叩いた。
「いいや。いつもより早よなったで」
「にゃはは」
 悠里は照れ笑いをしてこめかみを掻く仕草を見せた。これまで稽古の後は道場に残って竹刀を研いだり素振りをしたりするのが日課であったが、後輩もいるのでそれだけは卒業した。

 待っていたのは同じく卒業生で男子の主将だった篠原健太(しのはら けんた)、彼は高校の三年間なぜか悠里と同じクラスで、部員がそう多くない剣道部は男女一緒に稽古する機会が多かった事から互いをよく知る間柄だ。
 新人OBの男女剣道部の元主将は一度噂になったことがあるが、それは噂だけで、今では二人は良い剣道仲間である。異性でなければ親友になったと冗談混じりに言うそれは、申し合わせて言った訳ではないだけに、あながち嘘でもないのだろう。

「ほな、帰ろうか」
 二人はポカポカとした陽気に背中を押され、港の見える方へゆっくりと並んで歩き出した。

   * * *

「結果、明日やね?」
「ああ――。でも、もうどうにでもして的やね」
 悠里が問い掛けると健太が答えて笑う。既に終了した高校生活のロスタイム、二人は一瞬顔を見て前を向き直した。

 健太は先日国立大学の試験を受けた。その結果が明日発表される。
 しかしセンター試験で結果が振るわず、受けたのは不本意にも地方の大学だった。結果はまだであるが到底及ばないと自己評価している上、地方に行くか地元に残るか、考えてはいるものの受験という大仕事は終えたので気持ちはスッキリしている。  
 というのも明日の結果がダメだったら、学部は違うが今横にいる悠里と同じ大学に行くことになるだろう。見知らぬ世界に気心知れた者がいると思えるだけでも、第一志望に挑まずして届かなかった自分への癒しと割りきりになると健太は自分をなだめた。

「諦めたらアカンって。ルノが聞いたら泣かれるで」
「まあ、それは分かっとうけど……」
 健太は方にかけた竹刀袋を握りしめ俯くと、眉が寄った。 

 健太には晴乃という彼女がいる。
 悠里がルノと呼ぶ晴乃も同級生だ。成績も優秀で生徒会の役員も勤めた彼女は学校の外では悠里とバンドを組んでいて、悠里とは友だち以上の存在として互いに認識している。
「どっちにせよ、ルノとは別の大学行くしなぁ」
 健太の口からため息がこぼれた。そもそも健太と晴乃は幼馴染みで、家も近所で小学校に上がる前からずっと同じ学校で育った。
 そして、彼女をずっと意識していた。
 しかし勉強では彼女に及ばないことは分かっていたし、高校だって晴乃と同じところに入るために猛勉強をしたのだが、三年で水は開くばかりだ。

 今までの関係を踏み越えて彼女に思いを告白し付き合い出したのは去年のことだ。だがこの先別の道を行くことが決定している。自分含め周囲の友達は大学のランクは関係ないよと言うが、それは責任のない一般的な考えであって当事者にしてみればその一般的な考えなど全く関係なく、健太の中では彼女の方がランクが上であるという認識に変わりがない。
 受け入れる以外に選択肢のない事から逃げている自分に負い目を感じ、会えばケンカになるから最近は自然と彼女と会う機会が減っていた。

「いずれにしても明日は連絡したりよ。ルノも気になっとうねんから」
「ああ――」
 小さな公園に差し掛かったところで悠里は健太の肩を叩き、別れのあいさつとした。公園前の道路を挟んだ向かいが悠里の家だ。