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謝恩会(前編)〜すれ違う手と手〜

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結 晴乃→健太



 晴乃は先に下車したサラを見送ったあと、ポケットに入れていた携帯電話を確認すると一通のメールが届いていた。ひさびさに来たメールに晴乃は胸を踊らせ受信のボタンを押した。
 メールを送ったのは彼氏の篠原健太だった。晴乃たちはスタジオで練習しているのを友人の湊人を通して聞いていた。

  「もうすぐ帰ってくる?」
  「今電車、もうすぐ下りるよ」
  「駅前に、おるねん。待ってる」
  「うん」

 晴乃は周囲の目を気にしながら着信と同時に返信文を考えて送信する。今日の彼氏は今までにないくらい返信が速い。次々にやり取りしているうちに車内の放送は降りる駅の名前を読み上げていた。

 晴乃は携帯電話をポケットにしまったところで電車は駅に止まった。昼下がりの駅は数人の乗客を入れ換えるだけでいつもと同じ作業を繰り返すように電車は東へ走って行った。

 閑散としたホームをハミングしながらトボトボ歩き、改札機の方に目を遣ると、ここしばらく会ってなかった、会いたい人がその向こうに立っている――。
「おーい」
 普段なら自分が声を掛けるまで気づかないふりをする健太が、こちらに向かって手を振っている。最後にあったときケンカ別れしたことを気にしなかった様子であるのが近づくに連れて見える彼の表情で分かる。
「健ちん――」
 会うことを少しためらった車内のことなどすっかり忘れ、晴乃は小走りで改札に向かっていった。