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謝恩会(前編)〜すれ違う手と手〜

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「お待たせー」元気よくサラが二人に声をかけると、さっきまでの空気はどこかへ散り散りになってかき消えた「今日はちゃんとスペシャルゲスト、連れてきたよ!」
 悠里と晴乃がサラの後ろに目を向けると、スペシャルゲストと紹介された坂井湊人は少し恥ずかしそうな顔でコクリと会釈をしたあと、
「おい、大袈裟に紹介すんなよ……」
と小声で言いながらサラの二の腕を叩いていた。

「わぁ、ホンマに来てくれたんやぁ」
 さっきの表情をすっかり忘れ、そんな空気も気にせずに喜んだのは悠里だった。両掌を胸の前で合わせて二、三度飛び跳ねた。能天気な反応に場の雰囲気が一気に和む。
「お、おう。頼まれて断るのは筋じゃないだろう」
「ほら、隠れることないやん」 
無意識にサラの背中に隠れようとした湊人を目ざとく見つけたサラは、反転して湊人の背中を押して悠里の前まで送り込んだ。

「そうだ、時間ねーんだろ?さっさと音合わせしようぜ!」
「またまたぁ、素直じゃないな。リハも大事やけどまずは空気よ、空気」
 じゃれてるサラと湊人を並んで見ていた悠里と晴乃は息を吐きながら笑みをこぼすと、同じタイミングで顔を見合わせた。
「とにかく、たのしくやろうよ。考えたって答えがないこともあるよ、でもそれはそれで発見なんだからさ」
そう言って悠里は眼鏡を外して棚の上に置き、部屋の遠くを見つめながら右手でギターのネックをこするとキュルキュルと弦が鳴った。
「先がわかってたら面白くないやんか。わからへんから楽しいんとちゃうの?」
 悠里はそう吐き捨てて静かにメロディを弾き出した。雑談していた雰囲気はやがてフェードアウトして、それぞれ誰に言われるでなく自分の位置に付き準備を始めた。ものを言わない悠里の主張は皆に確かに伝わっていた――。

「とにかく、たのしくやろう」
 悠里の言葉がそれぞれの胸に響き、散らばる音も次第にひとつに束ねられて行った――。