黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7
「行こう!」
「はははひっ!」
颯馬じゃない。瑞でもない。教師でもあるはずない。あんな、まるでミイラのように枯れた足。二人は一階の廊下に駆け戻り、離れた場所で様子を伺う。
「…音がやんだ…」
ぴたりと、それは聴こえなくなった。消えた、のだろうか。ホッと息をついて郁を振り返る。
「一之瀬、見たか?」
「みみみ見ました…なんか、カーテンみたいなのがひらって」
「俺は足も見た。なんかいたな」
合流した方がよさそうだ。
あれが、いみご様…?嫉妬や羨望を糧に他者を貶める神様?
(俺も、あんなふうに、いつか誰かを呪うのだろうか)
ぞっとする。バカげた感情を振り払おうと、かぶりを振る伊吹。一瞬だけ見えたがりがりの足が脳裏によみがえる。
この日は祠を見つけられず、伊吹は瑞らとともに学校をあとにした。胸に渦巻く、生々しい感情を抱えたまま。
後編に続く
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作品名:黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白