風に揺られて風鈴
夏祭りは地域最大の夏のイベントだ。
前夜祭を入れて3日間の夏の風物詩。最後の夜は川沿いで大花火が上がる。
「準備出来たよ」彼女から電話があったのは花火大会の3時間前だった。
僕は彼女の家まで迎えに行く。
毎年恒例の花火大会。もう何度目の見物だろう。
ドアを開けると彼女は浴衣姿で立っていた。
「えっ、今年は浴衣なんだ。いいじゃん」僕は思わず見とれた。
「たまにはね・・。あなたにも私のいいところ見せないと」
「凄くいいと思う」
「あなたも今日はおしゃれじゃない。そういうの好きだわ」
「だよな。お互い何年も付き合ってるとズルズル普段通りになっちまうからな」
「まだ時間あるし、ビールでも飲んでいく?」
「いいね」
僕は玄関からあがりこみ、ウッドデッキのベランダが見えるリビングのソファーに座った。 もうすぐ日が沈む時間だけど、まだ暑い。
「エアコン入れてないんだ?」僕は聞いた。
「嫌いなのよ。自然の風が一番でしょ」
「ここは風通しがいいからいいね」
何度も訪れたことがある彼女の家は、いつのまにか僕のもうひとつの家のようだ。
「そうだ、この間、言ってた風鈴持ってきた」
「えっ、風鈴?」
「なんだ覚えてないの?」
「何のことだっけ?」
「ほら、いつか路上で見た風鈴屋・・・もしかして忘れた?」
「ごめ~ん、ぜんぜん忘れてるわ」
「僕が風鈴作ってやるから・・という話。ひどいなぁ~、せっかく作ってきたのに」
「えっ、そうなの・・・ごめん、ごめん」
「まあ、いいや。君のために風鈴作ってきた」
僕は包装紙に適当に包んだ小箱を彼女に渡した。
「開けていい?」
「もちろん!君のために作ったんだから」
彼女は包装紙を留めたテープを長い爪先でゆっくり剥がすと、四角い小箱の蓋を開けた。
「わぁ~、かわいい。これ、あなたが作ったの?」
「そだよ」僕は、彼女の笑顔を見てフフンと鼻を鳴らす。
彼女は吊り下げ紐を持ち上げて、目の前で僕が作った風鈴をチリンと鳴らした。
硬いガラスの綺麗な音が部屋中に響いた。
「凄く、いい音。それに絵もかわいい。あなたが描いたの?」
「上手くはないけどね、僕なりの涼感」
「この“風と共に去りぬ“って、なんで書いたの?おもしろい」
彼女は短冊の字を見て僕に聞いてきた。
「あ~それね。風とともにみんな嫌な事、飛んでってしまえ~・・ってこと」
僕は笑いながら言った。
「いいじゃない。ほんとに涼しそう。だから、あなたの感性が好きなのよ」
「あっ、とぼけてたな。風鈴のこと覚えてたんだろ?」
「ヘヘッ、今、思い出した」
「まっ、いいか。気に入った?」
「もちろん! 下げてくれる?」そう言って彼女はベランダの木を指さした。