風に揺られて風鈴
僕はそれからネットで風鈴の材料を捜してみた。
ついでに風鈴のことも調べてみると小さい頃から慣れ親しんだ僕らは、風鈴が鳴ると「涼しい」というイメージがすぐに湧いてくるが、これが外国人になると、そのイメージが湧かないらしい。
風鈴の音=涼しい の方程式はどうやら日本人だけらしい。
僕は絵が描ける無地のガラス風鈴セットを見つけて、注文した。
まるで小学生の夏休みの工作じゃないか・・。
そういえば昔、小学生の時作ったことがある。たしか、湯のみ陶器に穴を開けてもらって、短冊を付けて願いを書き、紐で吊るせるようにして自宅に持ち帰り褒められたことも思いだした。
今度は彼女に褒めてもらう番か・・・。
僕はレトロな思い出に一人、口元をゆるめネットの中のショッピングサイトをクリックして注文した。
2日後にはそのセットが届いた。
さて、何を描こうか?
彼女が喜ぶもの・・・そう、いつも一番最初に彼女の顔が浮かぶ。
先日、金魚ばかりのアクアリウム展に行った時の写真を思い出す。
いくつかの写真をパソコンで開くと、しっかり金魚の写真が何枚も出てきた。
金魚の種類も様々だったな・・。参考にする。
金魚らしい金魚はと考えると、赤くて尾ひれがヒラヒラでぷっくりとした金魚を思い出す。誰しもがそうだろう。アクアリウム展ではランチュウや変種の金魚が飾られていたが、あれはちょっとイメージと違う。祭りでの金魚すくいの金魚もどこか涼しさがない。
正統派の金魚というのは出目金で赤と白の模様で尾ひれがヒラヒラ・・・。
勝手に僕なりのイメージを風鈴ガラスに描くことにした。
僕が思い描く正統派の金魚・・“あなたの感性が好きなのよ“彼女の言った言葉を信じて僕はガラスの表面にアクリル絵の具で思い通りに描いてみた。
水草も描き、対の黒い金魚・・・これは僕で、赤い金魚は彼女だ。
清涼感が出るようにブルーの絵の具でグラデーションの水面を描く。
出来たっ!
まあ、こんなもんだろう。真面目に描いたけど、どこか子供が描いた絵のようだ。
そして、風に揺れて美しい音を奏でさせる短冊には
「風とともに去りぬ」という昔見た映画のタイトルを書いてみた。
仕事から帰ってきて、疲れた身体にチリンとねぎらいの音。
彼女の疲れも夏バテも、チリンと風と共に去りぬ・・・なんちゃって。
洒落もうまくはないけど、彼女の喜びを期待して完成した風鈴を僕は箱詰めした。
誕生日でもなく記念日でもない日にプレゼントを贈るのは大好きだ。
日常の中で「好きだよ」のサインみたいなものと思っている。
きっと彼女なら受け取ってくれるだろう、この気持ちまで。