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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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風に揺られて風鈴

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 そのハナミズキの木は僕が植木屋さんでたいそう気に入って、ここの庭に植えさせたものだ。あれからもう10年。ずいぶん大きくなっている。
「そうか、もうずいぶん長く付き合ってんだな俺たち」
「何よいきなり」
「腐れ縁なんかな?」
「そうかもね。切っても切れない縁」
「切りたい?」
「どうでしょうね・・・」そう言って彼女は冷蔵庫へビールを取りに行った。
 僕は少し枝振りの良い折れなさそうな枝を選んで、そこに風鈴を下げた。
 ここなら少しの風でも風鈴が揺れる。
 紐を枝に結わえた途端、風鈴は鳴り出した。

 チリンチリン、チリチリチリン・・・。
 風が吹くままリズムを刻む。
 自然の風を受け止めて風鈴はこの夏中、ここで彼女を癒してくれれば最高だ。
 ビールを飲みながら、僕を思い出しながら彼女は風鈴の音に耳を傾ける・・
 そんな風景を思い浮かべながら僕は缶ビールを受け取り飲んだ。
 
「乾杯!」
 僕は浴衣の彼女と風鈴が鳴るベランダで乾杯した。


 

 そして、1カ月後、僕らは突然、長い付き合いにサヨナラした。
 予想だにもしなかったが、これが僕と彼女の自然の成り行きなのだろう。

 風と共に去りぬ・・・・

 あの風鈴はまだ、あの枝で風に揺られて鳴っているのだろうか・・・。
 僕の頭の中ではあの風鈴の音が時々、聞こえてくる。
 
 チリン、チリン・・・
 あんなに涼しそうで幸せそうだった音が、もう僕の頭の中では心痛める音色にしか聞こえない。
 ハナミズキに揺れる風鈴・・・
 風が吹き、時間は流れ、僕らの幸せも過去になってゆく。
 チリン、チリン・・・、ほら、また鳴ってる。。。。

                             (完)






作品名:風に揺られて風鈴 作家名:海野ごはん