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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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風に揺られて風鈴

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風に揺られて風鈴


 コンクリートビルの谷間の街路樹の通りは蝉しぐれで溢れかえっていた。木陰には大理石のベンチが並んでいるが、まだ太陽の角度が上方にあるため、誰もそんな暑いとこで座ってはいない。
 スマホには熱中症を注意する警報が表示されているし、うだるような夏の午後だ。
 
 “チリン、チリン・・・“ 暑苦しい蝉の鳴き声の中に涼しい音が聞こえた。
 「あら、いい音!」隣で並んで歩いていた彼女もその音に気づいたようだった。
 ねえ、見ていこうよ・・・と言い終わらないうちに3本めの街路樹の木陰に出店している屋台の風鈴屋に向かって歩き出していた。
 都会の真中で今どき風鈴屋というのも珍しい。
 若いOLが数人、楽しそうな顔をして物色していた。

 丸いガラスには涼しい絵柄が描いてある。金魚、水草、朝顔、花火、ホタル・・・。
 なるほど絵柄だけでも暑苦しさを和らげてくれる。
 ガラス製が大半を占める中、昔ながらの金属製のものや陶器の風鈴も売っているようだ。
 「全部手書きです」と書いてある。
 なるほど、こんな絵付けは機械じゃ出来ない。だけど、どれも似たり寄ったりで大量生産には間違いないようだ。きっと、中国製?1500円? なんだか祭りの夜店のようなぼったくり価格に驚く。
 まあ、それでもエアコンの温度は適度がよろしいと変更された涼しくないオフィスでは、ひとときの涼を味わえるかもしれない。群がっていたOLの全員が何かしら選んで買っていた。風が吹かないオフィスでも人気があるようだ。
「いい商売だな」僕は本音がポロリと出た。
「そういうこと言わないの。情緒が大事なんだから」彼女は笑って僕に言った。
「まあな、情緒は大事だな。でも僕にも作れそうだ」
「あら、あなたが作るの?それいいわね。じゃ、買わない」
「期待するの?」
「もちろん!あなたのことだからいいのを作ってくれるでしょ」
「まいったな・・」
「私はあなたの感性が好きで付き合ってるのよ何年も。だからそれをたまに見せてね」
「いいよ。言ったことだし、今度の夏祭りにまでは作ってきてあげるよ」
「わぁ!どんなんだろう、楽しみだわ」
 彼女は風鈴屋から一気に興味が覚めたのか、僕の手を取り約束の映画館に向かって歩き出した。蝉の鳴き声が風鈴の音をかき消す。交差点に近づくともう風鈴の音は聞こえなかった。

作品名:風に揺られて風鈴 作家名:海野ごはん