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それでついにケアマネジャーの試験の日がやってきたよ。合格か不合格か。受けたその日に解答速報ってのが、携帯で見れてね。でも合格点が決まってるわけじゃないんだ。あくまでも合格基準点があってね。解答と照らし合わせたんだけど、医療のほうは合格のようだった。ハナのためにも医療は勉強したからね。でも法律のほうが本当ギリギリなんだな。受かっているか落ちているか、分からない。それから僕はケアマネの試験が受かっているか落ちているかも分からず、蛇の生殺しのような生活が続いた。残業も一年間してなかったからお金もなかった。
そして合格通知書が封筒で送られてきた。その日はハナが休みの日で、僕は仕事だった。ハナは封筒が届いたけど、僕に断りなく開けるのはいけないと思って、封筒を開けなかったんだな。でもハナは封筒の中身が気になって、封筒を電気で照らして、合格か不合格か一生懸命透かして見ようとしてたんだって。一日中。でも分からなかった。僕が帰るや否や二人で神妙な顔をして、封筒をはさみで切った。
“合格”
 二人で抱き合って喜んだね。もう嬉しくてたまらなくて、どこかに行きたい気分だったよ。横浜でなく渋谷にでも行きたい気分だった。でも一年間残業をしてなくて本当にお金がなくてね。
「おうちで居酒屋をしようか」
 二人でそう言って、僕はスーラー湯と、カレー用の牛肉で牛肉のトマト煮と、シソときゅうりのニンニクあえ。チャーハン、焼き鳥を作った。その間ハナはスーパーまで行ってビールとワインを買ってきた。ビールはいつもの発泡酒じゃなくプレミアムモルツを買って、ワインは三百円くらいのワインじゃなく、七百円くらいするワインを買ってきたな。ハナが自分で出すって言ってね。お祝いだからって言って。
 そうして僕達は「おうちで居酒屋」をして祝った。いやあ、最高だったな。
 そして僕はケアマネの研修を受けて今の介護施設にはケアマネはいらないから、有料老人ホームにケアマネとして転職したね。でも続かなかった。毎日毎日、事務作業、電話応対。どれもこれも、僕の生涯でやったことのないことだったから、施設長にケチョンケチョンに嫌われた。一生懸命やってたつもりなのにな。僕はどこかピントがずれてるらしいんだ。でも会社で怒られるのは百歩譲って許すとするよ。家まで電話がかかってくるんだから。今まで施設の料理を民家で老人と一緒に食べてたけど、転職してケアマネになったら、ハナが毎朝五時に起きて弁当を作ってくれてね。僕は料理はできても早起きはできないんでね。そして僕が夜十一時十二時に帰ってくる日もあるのに何も食べないで待っててくれる。またハナが料理をする番になったんだ。そんなのが三ヶ月続いた。
 ハナは体調が悪くなってね。尿タンパクが陽性って出て、むくみもひどくなって入院が決定したんだよ。あのときは絶望的だったな。そしてベッドがあくまで数日間家で安静にしてなければいけないってときにね。いじわるな施設長が深夜に俺んとこに電話をかけてきやがるんだよ。どういうつもりだろうね。「嫁が安静にしてなければいけないので」って言っても話が終わらなくて、嫁は本当に具合が悪くなったよ。四十度以上の高熱が続いて、救急搬送された。搬送先で医者から、安静にしてればいいのに、休めてないって言われてね。僕はあの電話のせいだと思って、はらわたが煮えたぎるくらい怒ったね。もう正常心じゃなかった。次の日ケアマネの仕事には行かなかったよ。無断欠勤だね。その次の日も会社から電話がかかってきたけど、一切出なかった。そうして僕のやったことはだな、会社にFAXを送ったのさ。夜中の二時頃にね。FAXには今まで施設長にやられたパワハラをすべて書いて、十四ページにわたったかな。送ってやった。深夜にFAXを送るということはどういうことか。施設長はいつも朝九時に出社するけど有料老人ホームは夜勤もあるし、早番もある。FAXチェックは早いので七時のチェックがあるから僕のFAXの悪口、施設長に醜態、みんな施設中に広まると思うんだ。実際施設長はみんなから嫌われていたしね。ケアマネが来なくなっちゃったって騒ぎのときのあのFAXだから、きっとみんな広まって騒いだろうよ。ざまあみろだ。僕は会社に行かずハナのお見舞いに行った。川崎の聖マリアンナ病院に入院してて、あざみ野からバスが出てるんだ。本当に交通の便が悪いとこでね。何日か通ってハナの状態が落ち着いたときに、「会社辞めた」そうハナに告げたよ。ハナは別段文句も言わなかった。
「ケアマネの仕事むいてないらしい」
 そうも言った。ハナは、
「介護の仕事なんてどこも余ってるんだから、大丈夫よ」
 そう言ってくれた。ケアマネの資格をとっても、また、収入が上がらずじまいか、そう思ったけど僕はハナの言葉に甘えたね。現場の仕事に戻るためハローワークに行った。その間ハナの見舞いに毎日行った。
作品名:LOVELY 作家名:松橋健一