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 そうして僕は山下公園でプロポーズをしたんだ。一万円くらいの婚約指輪を買ってね。「僕と一緒になれば僕の手料理が毎日食べれる」って言ったんだな。そうして僕は横浜の新居にハナと移り住んだ。介護の仕事だからね。お金なんかは本当なかったさ。よくハワイやなんかで式を挙げる人がいるけど、僕達にはとんでもない話さ。本当そんな余裕なかったな。あのときはケアマネはおろか、介護福祉士もなかったからね。僕の給料の手取りは十二、十三万位だったかな。僕達は横浜の伊勢崎モールの近くのキサラっていうカラオケのあるカラオケダイニングの店で小さな結婚式を挙げたんだ。そのとき、康平をと武志と篤史が来てくれてね。
 僕達は平成二十二年に籍を入れた。僕とハナは横浜の新居に移り住んだよ。
 小さなハイツにね。
 僕は料理以外にカラオケが趣味なんだな。結婚式のカラオケダイニングでも例の平井堅の物まねをしたんだな。ハナと初めて行った映画、「世界の中心で愛を叫ぶ」で平井堅が「瞳をとじて」を歌っただろ。僕達にとっては思い出の映画なんだよ。僕は「瞳をとじて」を熱唱したけど、康平も武志も篤史もあまり僕を褒めないんだ。ハナの歌の方がうまいって言いやがる。でも僕とハナで二人でよくカラオケに行くんだよ。関内のカラオケの昼間三十分八十円とか安い時間帯をねらってね。僕達はいつもお金がなかったからね。
 ハナほ僕の歌を褒めてくれる。僕の声を平井堅に似てるっていってくれるんだ。康平たちの反応をみると、本当はあまり似てないんだろうけどね。とかく、ハナは僕のことをたててくれる。
 僕は介護施設で施設長によく怒られてね。ハナは怒られない優等生なんだけどね。こういった話をすると、康平や武志や篤史は、よくお前みたいな奴がハルナちゃんみたいな嫁さんをもてたっていうんだよ。ともかく僕は施設長に怒られると、とかく酒が飲みたくなるんだな。本当は「金の蔵」とか、「魚民」なんかで派手に飲みたいんだけど、その金もないから、僕とハナのよくやったことは、
「おうちで居酒屋」だ。
 つまりスーパーに行って百八円で買ったビールに三百円くらいのボトルワインを買って家で飲むんだよ。僕は十分あれば、豆苗のニンニク炒め、若鶏を切って串に刺し、焼き鳥にし、枝豆を茹で、二百円くらいのサーモンの刺身を切って、サーモンの握りを作れるからね。
 ものの十分で作っちゃうんだよ。
 僕がよく介護施設でケチョンケチョンに怒られると、ハナと二人で帰りながら、僕は、
「あの施設長のクソババア。肝っ玉が腐ってやがる。あの意地悪は病気だ。あんな奴ほど将来、施設に入ったときいじわる婆さんになって、誰からも相手にされず嫌われるんだ」
 散々、施設長の悪口を言ってね。ハナは僕の話をよく聴いてくれるんだ。そして、僕は、
「そうだ。今日もおうちで居酒屋やろうか」って言うとハナは反対したことがなかったね。僕は料理を作るのが楽しみだったし、ハナはいつも僕の料理を、外で食べるより美味しいと言ってくれた。少ない給料で僕達は何とか暮らしてたよ。家賃は滞納したことないし、お金の面では僕達はしっかりしてたよ。たまに、鎌倉や熱海や箱根にも旅行に行ったしね。二人で家賃を払うとき、少しずつ積み立てをしてたからね。
介護福祉士の資格を受けて受かった。そのときはハナと喜んだよ。おうちで居酒屋もいいけど、そのときくらいはさくら水産で刺身を食べたね。まあ、僕の料理の方が美味いんだけどさ。介護をして長い間たったな。僕は年数的にはケアマネジャーの受験資格をとっくに得られてたけど、なにせ僕は頭はよくないんでね。ケアマネジャーは難関試験だよ。
でもいつまでもハナと貧乏暮らしをしているのは、ハナに申し訳ない気持ちがあった。ハナは文句を言ったことはないけどね。
僕は介護の仕事をしたあとは疲れちゃうんだ。とても勉強どころじゃない。残業は一時間くらいするけどね。
そこで僕は考えたんだ。一時間残業をするのを止めて、仕事を終え、その勢いで残業をする気持ちで勉強しようって。でも僕はいつも料理をしてた。だからハナと相談して一年間僕が料理をしないでハナに料理をまかせて僕は勉強をする。ハナは協力してくれたよ。施設長も残業をしない約束を承諾してくれた。普段勉強が続かない僕も、すぐ隣のキッチンでハナが僕に代わって料理をしていると思うとさぼれなくてね。その一年間は本当に勉強した。僕は一切料理を作らず、ハナの料理は僕みたいに手の込んだものではなく、普通に野菜と肉を炒めたり、魚を焼いたり、サラダは大根を切ってトマトを添えて、シーチキンをのせて、コーンをのせて、色的には良かったな。そしてマヨネーズでサラダを食べる。僕だったら一分でイタリアンドレッシングを作っちゃうけど、そんなことハナには言えなかったな。せっかく作ってくれるんだもん。時にはしょっぱくても、塩味が全くなくても僕は「美味しいよ」と言って食べた。ハナは体が弱いのに介護の仕事をしたあと、料理までさせて本当に申し訳なかったからね。
作品名:LOVELY 作家名:松橋健一