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LOVELY

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 そこで嫁と会ったんだよ。はじめは嫁と映画に行ったな。「世界の中心で愛を叫ぶ」って映画だったな。なかなかいい映画だったよ。僕は泣けてきてね。彼女の方が僕にハンカチを渡してくれたんだ。笑っちゃうね。それから「アマルフィ」とか、「カイジ」とか、僕達はよく映画を観に行った。そして横浜の山下公園に行ってベンチで休むんだ。中華街で中華まんとか買ってね。嫁は晴菜っていうんだよ。いつもハルナって呼んでハルナは僕をヒロ君て呼ぶんだ。僕の名前はヒロキだからね。だけど、あるとき僕は舌が回らなくてハルナのことをハナって呼んじゃったんだよ。向こうは笑ったね。でもハナって呼んだのが気に入っちゃったらしく、これからもハナって呼んでほしいって。それから僕はヒロ君と呼ばれ、僕は彼女のことをハナって呼んだ。
 よく山下公園に行ったね。僕は山下公園の周りをよく走るんだ。そうしてハナが僕の背中の汗を拭いてくれる。山下公園に行くってことは、当然中華街にも寄るんだよ。僕の実家は本牧で、小さい頃から中華街にはよく行ったな。だいたい美味しい店は知ってるよ。ハナと中華の店に入って味を盗むんだ。例のことだよ。僕の舌は、料理が出て、その料理を食べると、これがどうやって作られているのか。何の調味料を使っているのか分かるんだな。僕の実家で料理をふるまうんだ。僕の母ちゃんは親父と離婚して、一人でヤマザキパンで夜勤をしているから、母ちゃんがいない日に、ハナを家に連れてくるんだ。そして中華街の料理を再現させる。ハナは驚いたよ。すごいヒロ君、本物より美味しいってね。本物より美味しいってのは言い過ぎじゃないかと思うけど、悪い気はしないんだな。実際本物より美味しかったかもしれないしね。
 僕の料理は味だけじゃないんだな。ハナは腎臓を患っていて、ネフローゼって病気なんだ。だから塩分は当然控えなきゃいけない。中華街の料理はもちろん美味しいけど、あれを毎日食べてたら、ハナの体にはよくないんだ。その点僕は味を落とさず、ネフローゼによくない塩分、カリウム、たんぱく質を控えた美味しい料理を作ることができるんだ。美味しい料理の世界大会で僕が優勝できるかどうかは微妙だけど、もし、たんぱく質、ナトリウム、カリウムを制限したという条件で世界の料理大会があるとしたら、僕は間違いなく優勝だね。僕は昔からできそこないの落第生だったけど、一人の人のためを思えば、徹底して努力するんだ。たんぱく質とナトリウムとカリウムを制限した美味しい料理を徹底的に研究したね。魚を一人分食べるとたんぱく質の摂りすぎだから、カリウムがお湯で流れた温野菜、その中でも茹でても味の落ちないブロッコリーを使い、生サーモンとニンニクで和え、つまりは塩分の多いスモークサーモンを使わずに、ブロッコリーとサーモンのマリネなんかを作った。野菜でも豆苗なんかは旨みがいっぱい入っているから、塩を一切使わず、昆布のだしをちょっと入れるだけであとはニンニクを使えばいい味が出るんだ。ネフローゼには塩分は天敵だから、ニンニク、こしょう、山椒、しそ、カレー粉、みょうが、ねぎ、しょうが、そんなものを多用するんだ。ナトリウムとカリウムは相関関係があってね。ナトリウムを制限しすぎると、カリウムの値が上がりやすく、カリウムを制限しすぎてもナトリウムの値が上がる。僕は勉強はできる方じゃなかったが、ハナのために勉強をしたんだ。
作品名:LOVELY 作家名:松橋健一